第161話 クリスマスイヴに送られたのは

 12月23日、蒼唯が通う高校の終業式の日であり、まっくよたちが立案した『サンタクロース熟睡計画』の実行前日に、ぬいとまっくよはリリスのダンジョン『吉夢の国』のクリスマス特別パレードのゲストとして参加していた。

 前までは、『吉夢の国』とぬいたちの関係は公にはしない方針であったが、『まっくよ羊たちと爆睡事件』や『茸売りのぬい事件』などの影響で、手遅れになってしまったため、開き直っている部分がある。

 

【では、まっくよ様は『変幻自在』を使っていただいて様々なモンスターに変身を繰り返してください】

「まく~」

【ぬい様も指定ポイントでの茸を忘れないで下さい】

「ぬいぬい!」


 リリスが念入りにまっくよたちに指示を出す。

 まっくよたちがここまでパレードに協力的なのは、このパレードに協力する事が、明日の『サンタクロース熟睡計画』にリリスが協力する条件だったからである。

 まっくよたちの計画ではサンタクロースが蒼唯の家に来ることが前提であったが、テレビの特集などを見ていると、サンタクロースは良い子の元にしか来ないのだと言う。


 まっくよたちの認識では、生みの親である蒼唯は当然として、自分たちも立派な大人である。

 蒼唯も、


「確かに最近はクリスマスプレゼントは貰って無いですね」


 と言っており、サンタクロースが蒼唯の家に来ない可能性が高いのだ。そのため、まっくよたちが考えた。リリスの『縫包もふもふ化』であるぬいぐるみモードのリリス子どもらしい見た目をしている。その状態のリリスが部屋ですやすや眠っていれば、サンタクロースも子どもと間違えて蒼唯家に訪れるに違いないだろうと。


【まあ、私は『縫包もふもふ化』して寝ていれば良いので楽ですが…本当に誘き出せるのでしょうか?】

「ぬいぬい!」

「まく~」

【デフォルメされて、頭身が低くなったとは言え、『夢魔姫』なのですが】


 いくら『縫包もふもふ化』が優れているとは言え、リリスが伝え聞くサンタクロースは、1年の大半を情報収集に使い、世界中に点在する良い子を見つけ出すスペシャリストである。見た目子どもっぽい程度で騙せるとは思えない。そもそもぬいぐるみモードのリリスはそこまで子どもっぽくない。


 しかしまっくよは、謎の自信に満ち溢れておりサンタクロースが来る前提で計画を練っているため、リリスも水を差し辛いのであった。

 

 そしてリリスが協力する交換条件で手伝ったパレードは、やる気満々のまっくよたちの活躍もあり大成功で幕を閉じる事になる。

 しかし次の日、まっくよたちが『サンタクロース熟睡計画』を実行することは出来なかった。

 クリスマスイヴに届けられたのはサンタクロースからのプレゼントではなく、日本を含む、多くの国のダンジョンが同時多発的にダンジョンブレイクという大規模なダンジョン災害であった。


―――――――――――――――


 ダンジョンブレイク。最近はぬいたちがダンジョンを攻略する事を指す言葉と化しているが、本来の意味はダンジョン内のモンスターがダンジョン外に出てくる事を指すモノである。

 ダンジョンブレイクが発生する原因は様々あるが、主の原因は、探索者たちがダンジョン内のモンスターを定期的に間引かず、ダンジョン内のモンスターの収容限界を越えてしまった結果だと言われている。


 しかし今日、発生した未曾有のダンジョン災害の発生原因はそれでは無い。ダンジョンブレイクを起こしたダンジョンは、どれも有名であり探索者が良く攻略に来る所であった。

 収容限界を突発してしまいダンジョンブレイクが発生したとはとても考えられなかった。


【特別な理由があれば別ですが、ダンジョンブレイク等、起こしたいダンジョンマスターはいないと思いますよ。魔力収支を考えればマイナスですので】

「となると特別な理由があるってことです? ダンジョンブレイクブームとか到来してるです?」

【そんな流行は、少なくとも私の元には届いていませんが】


 更に今回のおかしな点は、複数のダンジョンが同時にダンジョンブレイクを起こした事である。

 複数のダンジョンマスターが示し合わせたとしても合いすぎているようにリリスには感じられた。


「じゃあ、誰かがダンジョンを操ってるとかです?」

【ダンジョンブレイクするように命令…『魔王』の権能? ですが、流石にあの方の権能でもダンジョンに直接命令は…代行権との組み合わせでダンジョン核まで来れれば――】

「おーいです。一人で考え込むなです」

「ぬいー」

「まく~」


 リリスの元上司である『魔王』。その者の権能である『命令権』を使えば、今回の災害を引き起こすことは可能である。逆にそれくらい規格外な力でなければ今回のような事態を引き起こすことは出来ないだろう。


「まあ、『魔王』が関わってると決まった訳じゃ無いですけど、リリスの所も狙われる可能性はあるですよね?」

【そうですね】


 ダンジョンマスターが自発的に起こしたブレイクでなければ、何者かの介入で引き起こされた災害と言うことになる。

 となればダンジョンマスターであるリリスと彼女のダンジョンである『吉夢の国』が狙われる危険性はセロではない。リリスの元上司である『魔王』関連であれば尚の事だ。


 そのため蒼唯は一つの決断を下すのであった。


「よし、決めたです!」

【き、決めたというのは?】

「前々からやろうと思ってたですけど、丁度良い機会です。今日やろうです」

【で、ですので何をでしょうか!?】

「リリスが真のダンジョンマスターとなるために必要な事、ダンジョン核からの脱却です。」


 

 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る