第162話 本体と分身
リリスに連れられて蒼唯は『吉夢の国』のマスター室に来ていた。目の前には『吉夢の国』の心臓であるダンジョン核もある。
リリスからダンジョンマスターについての話を聞き、蒼唯はダンジョンマスターは、ダンジョン核の分身的な存在であると感じた。
リリスとしても、ダンジョン核の分身的な存在、に成り下がっていることに不満が無い訳ではない。しかしダンジョン核が無事であれば、ほぼ不死身であるという絶大なメリットの前ではその不満も霞んでいたのだ。
「普段ならダンジョン核は、メリットかもしれんです。でも相手がぬいとかまっくよレベルなら話は別です」
「ぬいー」
【…そんな災害レベルの相手となると話す暇も無いのですが】
「そうです? 今のリリスなら逃げに徹したら何とかならんです?」
「まく~?」
【接近に気が付くタイミングにもよりますが…五分でしょうか? ですが――】
「そうです、リリスはダンジョン核という弱点を動かせんです。なので逃げても核を食べられておしまいです」
【はい】
ダンジョンを食べられるような非常識な存在が例に上げられているが、他にもリリスよりも弱い相手であっても、それこそ悪魔化事件の『神没』のようなワープ能力を駆使してダンジョン核を狙い打ちされれば、格下相手でも殺される可能性はある。
「真のダンジョンマスターとして、ダンジョンやダンジョン核を使うことはあっても、使われるべきじゃねーと思うですよ。『魔王』? の命令権でダンジョンやダンジョン核が命令されたらその余波でリリスも操られちゃうかもですし」
【それで前々から蒼唯様が言っていた、ダンジョン核からの脱却ということですか。つまり私が本体となると…】
ダンジョンすら造り出せる蒼唯ならば、ダンジョン核とダンジョンマスターの上下関係を引っくり返すことも可能であろう。
ダンジョンやダンジョン核はリリスの道具となり、仮にダンジョンやダンジョン核が狙われたとしても、切り捨てる事が可能となるだろう。しかしその場合、ダンジョンマスター一番の利点を捨てることになるとリリスは考える。
【ですが、私が本体となると言うことは、ダンジョンマスターとしての不死身能力を捨てるという事ですよね?】
確かにダンジョンマスターに不安定な部分が存在することは理解出来る。しかし、それでもダンジョンマスターの能力は有用である。簡単に捨てることはできない。そうリリスは考えた。
それを聞いた蒼唯は、何を言っているんだという表情でリリスを見つめる。
「何を言ってるです? 折角ダンジョン核から脱却するのに、これまでの能力使えなくなったら意味ないです」
【え、ですが、え?】
「どっちが本体とかそういうのを取っ払うです。リリスもダンジョン核も時に本体であり、時に分身となるです。最低限これまでの状態に加えて、リリスが無事ならダンジョン核も無事って機能を追加するです」
蒼唯は、ダンジョン核が致命的な弱点という点を解消しつつも、これまでのダンジョン核が有る限りリリスは不滅という利点は残したいと考えていた。
【そ、そんなこと出来るのですか?】
「え? できないのに私が態々、ダンジョンまで来ると思うです?」
【お、思いません】
「まあダンジョン核のシステムを弄った上で、ダンジョン核の機能の一部をリリスに付与してとか色々やらなきゃならんですから、かなり時間は掛かるですけど。…それかダンジョン核の複製品とか造ってリリスに埋め込んだ方が早いです?」
ダンジョン核を弄って自分は大丈夫なのだろうかや、ダンジョン核の一部を付与されるのか等、様々な考えがリリスの頭の中を駆け巡る。
そんな思考放棄気味のリリスであったが、
「あ、それと、ダンジョン核も戦えるように可愛くすれ――」
【それは止めてください!】
「ダメです?」
【止めてくださいね】
ダンジョン核もふもふ化を通す程では無いのであった。
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