ダンジョン災害編

第159話 期末試験

 無職を救済したり、意図せず研究者の思考を汚染させたり、小悪魔な探索者を増殖させたりと何だかんだ濃い2学期もそろそろ終わりに近づいて来ていた。

 2学期も終わりと言うことで、蒼唯たちは冬休み前最後の関門である期末試験に挑んでいた。


「そこまで。書くのを止めて答案用紙を後ろから回収してくれ」

「まく~」

「おお、まっくよもいつもありがとうな! 試験勉強で寝不足の生徒対象登校後10分睡眠のお陰で今回も平均点高そうだ」

「まくまく~」

 

 2学期の中間試験では、まっくよが勝手に眠そうな生徒や体調が悪そうな生徒を短時間睡眠させたのだが、そのお陰で、寝不足生徒の凡ミスや体調不良で本来の学力を発揮できない等の生徒が減り、全体の平均は向上した。

 それを知った学校側が、まっくよと蒼唯にお願いをし、希望する生徒全員に対してやって貰った。その結果、先生が答案用紙をざっと見た感じだけでも平均点は高そうであった。

 

「期末試験は選択授業の試験も増えるから大変です」

「まく~」

「ダンジョン学の授業は、素材とかの範囲だったから何とかなったです」

「まくまく!」

「終わった事はどうでもいいですね。帰って趣味活頑張るです」


 蒼唯の放課後は趣味活に忙しいため、基本的に授業を聞いて理解して試験に挑むタイプである。それでもそこそこの点数が取れる頭の良さがある。

 ただ、選択授業のダンジョン学は、興味のある部分は覚えているのだが、それ以外の部分は右から左なため壊滅的である。今回は蒼唯のこれまでの経験で解答できる問題だったため良かったが、そうでなければ悲惨な結果となっていたところだっただろう。


「そう言えば、この前『ブルーアルケミスト』に出品した卵が孵化したって話を――」


 しかし終わり良ければ全て良し。蒼唯は直ぐに試験の事など忘れ、別の話をしながら帰宅するのであった。


―――――――――――――――


 期末試験が終わり、職員室では各教科の教員たちが採点作業をしていた。

 定期試験は、生徒にとっても憂鬱だが、作問地獄と採点地獄を乗り越えなければならない教員たちにとっても憂鬱なイベントである。


「今回は、まっくよちゃんのお陰で寝不足な状態で授業なんて事にはならなかったから助かりましたね」

「もはや、まっくよがいない学校生活など考えられません」

「そんなこと言って山本先生、もうそろそろ転勤かもって噂ですよ?」

「そんなそんな、せめて齋藤が卒業するまでは!」


 しかし最高の睡眠を届けてくれる幸運の黒猫のお陰でその憂鬱さは、少しは解消されているようであった。

 そんな中、ダンジョン学の採点をしていた1人の教員が困惑の声を出す。


「え、えーと、これは…」

「どうしましたか? 鈴本先生?」

「あ、山本先生…この齋藤蒼唯さんの解答なんですけど、ちょっと見てくれませんか?」

「齋藤の? どれどれ。これは『妖精の粉』の効果を答えよって問題ですね。そんな難しい問題じゃないでしょ? 齋藤なら簡単に――」


 『妖精の粉』は魔力の回復ポーションの材料にもなる素材であり、その粉自体にも魔力を回復させる作用があることで知られている。他の生徒ならいざ知らず蒼唯が間違えるような問題では無い筈である。しかし蒼唯の解答は教員たちの想定と程遠いモノであった。


「『薬草と一緒に煮ることで薬草を霊草にする効果』…はぁ?」

「霊草って『霊薬エリクサー』を作るために必要な素材の一つですよね?」

「そうだな。確か高難易度ダンジョンでも本当に限られた場所にしか無いと言われてるレア素材だな」

「霊草って薬草と妖精の粉で作れるんですか」

「俺が知るわけ無いだろ!」


 勿論、そんな情報は聞いた事もない。これが事実なら大発見である。しかしこれが本当か間違いかわからない。もしかすれば蒼唯が問題文を見間違えた可能性もあるし、妖精の粉を知らずに適当に書いた可能性もある。

 

「齋藤以外が書いたなら、バツにして終わりなのに!」

「えーと、探索者協会か、国立ダンジョン研究所に問い合わせて見ますか?」

「それで正誤が分かるとも思えないが…もう齋藤に確認を取って、最悪目の前で見せて貰うしか無いんじゃないか?」


 結局、そう言う結論に至るしか無いのであった。

 当然の事ながら、探索者協会も国立ダンジョン研究所に問い合わせしても分からず冷笑される始末であった。その後、蒼唯の解答だと聞いてひっくり返っていたが。



 

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