閑話 ぬいとまっくよのダン食

 『迷宮喰い(少食)』を習得した2匹の朝は早い。主人である蒼唯から、ダンジョン『お菓子部屋』を与えられている2匹だが、たまには別のダンジョンで味変をしたい日もある。


ぬいぬいくよ

まくまくはいはい


 早寝遅起きを信条としているまっくよは、食い気より眠気なのだが、食い気全振りのぬいにお願いされ着いていくことになる。

 まっくよが『悪夢の国』を食べ尽くそうとした際、慌ててリリスが現れたように、ダンジョン核があれば不滅である筈のダンジョンマスターにとって迷宮喰いは、消滅を予感させるほどの緊急事態であるのだ。


まくまきょうは?」

ぬぃぬりゅう


 さらに言えば美味しそうなダンジョンは、軒並み難易度が高いため、食べ始めて直ぐに、怒涛のモンスターたちが阻止してきたりするため、ゆっくり味わうこともできない。

 しかし、眠りを司るまっくよがいれば話は別である。怒涛のモンスターの襲来も眠らせてしまえば問題ない。逆に眠っているモンスターたちが壁となってくれてゆっくり食事が出来ると言うものである。


 そんな2匹が本日向かうダンジョンは、ドラゴン系モンスターの宝庫として知られる『龍の郷』である。上層から普通に上位種のドラゴンが出現するため、対抗手段を用意しなければ高位探索者パーティーでも上層すら突破できない最難関ダンジョンの一つである。


「グァォオオォオオオ―――」

まくねろ~」

「グァオ…グゥゥ」

ぬいぬはえろー!」


 しかしそんな人々の事情は『迷宮の壊し屋ダンジョンブレーカーズ』の異名を持つ2匹には、関係の無いことである。2匹が通った後には茸ベッドで眠りこけるドラゴンたちがいるだけであった。


まくまくつぎどこ?」

ぬいおく!」


 当然だが、ダンジョンは階層ごとに味が異なる。奥に行けば行くほど美味しくなっていくのが相場だが、それだけではなく、例えば階層によって気候やギミックが異なるため、その影響でも味は変化する。

 そんな味変を楽しみすぎて胃もたれを起こしてしまったのだが。


まくっまぴりっと

ぬいぬいぴりぴり?」


 雷鳴が轟くフィールドのピリピリ具合を堪能していたぬいたちの元に、『龍の郷』のダンジョンマスターである『創世龍』が現れる。

 現れた所で何も変わらないが。


【貴様ら…何のつもりだ!】

ぬいぬいたべあるき?」

【我が郷を食べておいて無事です――】

まくねろ~」

【すや~】


 他のドラゴンたちと同様に、『創世龍』も茸ベッドでお休みになる。

 ただ今回の食べ歩きが、これまでのダンジョンブレイクと異なるのは、ダンジョンマスターを茸まみれにしたり、拘束して何かを要求したりはしない点にある。蒼唯からもやり過ぎないように注意を受けているため、食事しにダンジョンに行く度にダンジョンブレイクを起こしていたら、蒼唯から食べ歩き禁止令が出されてしまうだろう。


ぬいぬかえる?」

まくうん


 そのため『創世龍』が配下のドラコンに起こされ辺りを見渡すと、もうぬいたちの姿は無く、被害を確認すれば、ダンジョン全体としてみれば軽微な被害に留まっているのであった。

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