第152話 折る折られる

 蒼唯は探索者の知り合いが少ない。フリーマーケットサイト『ダンジョンショップ』で活動していた頃からの客くらいしかおらず、『ブルーアルケミスト』に移行して以来、蒼唯個人が客とやり取りする機会も激減してしまったことも影響している。

 また探索者の知り合いは、蒼唯の客であることが多く、そのためか戦闘職の知り合いが殆どで、生産職は師匠である優梨花と商人の柊くらいであった。


 しかし喜ばしい事に最近、蒼唯と連絡を取り合う生産職が増えていた。

 

【蒼唯様? 例の方から新作が届けられましたがどうしますか?】

「今、ちょうどこっちも手が空いたですから見るです」

【畏まりました】


 蒼唯は送られてきた『ポーション』を視る。前からアイテムを視る眼力も凄まじかった蒼唯であるが、転職し『真理の眼』を習得した蒼唯は、端から視れば文句の付け所の無い『ポーション』に隠された粗を見逃さない。

 確認を終えた蒼唯は、『ポーション』の送り主にメッセージで返答する。


蒼唯:「使ってる瓶が可愛く無いですね」


麗花:「毎回、可愛さのダメ出しから入るの止めてくれないかしら?」


蒼唯:「大事なことですから」


麗花:「肝心の出来映えはどうだったかしら?」


蒼唯:「効果が均一じゃ無かったです。水と薬草に注ぐ魔力にムラがあるんだと思うです」


麗花:「ぐぅ…」


 送り主は『錬金工房』所属の『錬金術師』である麗花であった。彼女と蒼唯は、プライドをボキボキに折る折られるの関係性である。勿論、蒼唯が折る側だが。

 そんな麗花はいつの日か、蒼唯に認められるべく日々精進しているが、その日は遠そうである。


 とは言え何度酷評されても諦めず定期的に造ったアイテムを送ってくる根性は蒼唯も認めている。指摘しても一向に可愛らしさが反映されないのはいただけないが。

 そのため蒼唯もそれなりに真剣に指摘をしており、そのお陰もあってか、麗花の実力はぐんぐんと伸びていっている。最近では『錬金工房』で『神の手』の称号を持つ『錬金術師』丹波はじめ以外では唯一、1人での製品造りが認められるほどなのだとか。


蒼唯:「そう言えば麗花さん、何かに作品を送るとか意気込んでたですけど、造れたです?」


麗花:「造り終えましたわ」


蒼唯:「それは視なくて良いんです?」


麗花:「貴女に添削された作品で予選を通過しても誇れませんので」


蒼唯:「そんなもんです?」


 前に麗花は、日本中の生産職たちが集う大規模な大会に参加すると話していた。

 本選に出場するためには、作品を提出し数ある応募作品の中から選ばれなくてはならないのだ。とは言え、今の麗花の実力なら相当変なモノを提出しなければ予選は突破するだろうが。


蒼唯:「どうせ、実用性重視の可愛らしさの欠片もない作品を提出したです」


麗花:「当たり前ですわ!」


 見た目を重視しつつ実用性も兼ね備えているアイテムなど造ろうと思っても造れるモノではない。蒼唯のマネをして可愛いアイテムを出品する生産職も稀に見かけるが、どれも見た目だけのハリボテであった。

 麗花も蒼唯を体感するためにと、何度か挑戦してみたが無理であった。そもそも実用性重視でも蒼唯レベルには程遠いのに余計な事を追及していれば、そのような結果になるのは明白である。


麗花:「それで貴女は本当に出場しないのかしら? 貴女なら予選など無しに本選から…それどころかはじめ先生と同じように審査員の依頼が来てもおかしくないのに」


蒼唯:「知らないですし、興味も特に無いです」


麗花:「『商会連合』かどこかが事前に断ってるのかしら? 少し残念ね」


 興味の無い蒼唯を引っ張り出す事の難しさは、麗花も分かってきているので、諦めるしか無いのであった。

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