第145話 結果的に飴と鞭

 来馬柊は、蒼唯から送られてきた『悪魔化』事件の犯人の情報を前に途方に暮れていた。


 何らかの転移系のスキルを使いながら各地のダンジョンで探索者に『悪魔の種』を植え付けてくるモンスター。探索者協会や各ギルドの探索者たちが連日調査した結果判明したのはたったのこれたけどあり、どのように対応すれば良いのかも分からなかった。

 そんな中、『悪魔化』の治療と平行して調査したと言いぽんと送られてきた蒼唯からの情報は、驚くほどに詳細であった。


「…新しい『ぬいぐるみ』のリリスは、交渉や調査に特化した性能をしているみたいな話は聞いてたぜ? にしても詳細すぎるだろ。まるで鑑定スキルで犯人を視たのかってくらいだせ」

「ぬいぐるみ交渉で有名なリリスですね。それにしてもここまで詳細に調査しておいて討伐や捕獲はしないのですか…」

「ぬいとまっくよが忙しいらしいぜ。まあ最近、アオっちに頼りすぎてた面があったからな。ただ…」


 探索者はダンジョンに鎮座するモンスターを攻略する事が常である。ダンジョンには罠や奇襲を仕掛けてくるモンスターも出現するため、それへの対応もある程度は出来ないといけないが、ボス級のモンスターが神出鬼没に現れるような経験は誰もない。

 イレギュラーの対応は、同じイレギュラーに頼りたくなる心情は皆同じであり、探索者協会や他のギルドに情報と共に蒼唯たちの参戦は無いと伝えたところ動揺が見られたのであった。


「さて、悩んでても始まらないし、そろそろ対策を――」

「来馬マスター! 支部より急報が」


 頭を切り替え対策を練ろうとした途端、職員の1人が柊の部屋に駆け込んでくる。


「緊急の用件か?」

「そ、それが、先日各支部に通達した『悪魔の種』の件でして」

「『悪魔の種』? 新しい犠牲者が出たか?」

「いえ、そうではなく。支部の受付に大量の『悪魔の種』を持った探索者の方がいらっしゃいまして、買取りに出したいと…」


 突然の事態が上手く飲み込めない柊を置いておいて報告は続く。


「はぁ?」

「専属の鑑定師の鑑定結果もありまして…それと」

「まだ何かあるのか?」

「ダンジョンにいきなり現れた悪魔を討伐したところ、『悪魔の種』もドロップしたとの事でして」

「『悪魔化』事件の犯人の可能性が高いってことか?」

「支部の方ではそう判断し、速報してきた模様です」


 最早、驚きのあまり呆然としてしまう柊。しかしこんな衝撃的な出来事であるが、何となくで既視感を覚える。


「その探索者の名前は?」

「えー、桜花沙羅、あの『ぬいぐるみ少女』として有名な桜花沙羅様です」

「あーな、4体目の『ぬいぐるみ』か、なるほどな。よし、俺が彼女から話を聞く。移動の準備をしてくれ」

「は、はい。分かりました!」


 言うが早いか、柊は直ぐに支部へと移動するのであった。


―――――――――――――――


 沙羅は、『商会連合』支部の貴賓室で困惑のあまりおろおろしていた。

 ダンジョン探索をしていたところ、悪魔系モンスターが出現し、何やら偉そうな態度で『小悪魔化』した父親を品定めしてきた。そういった場合、一般的な探索者であれば警戒して動かないものだが、そういったセオリーとは無縁の存在が沙羅のパーティーにはいた。


「ベア!」

「そうだね。ベアーくんのお陰だね」

「まだ色々と言っていた中で強烈な一撃だったからね」


 ベアーくんが速攻を仕掛け、対応しようとした悪魔だったが何らかの要因で対応が間に合わずベアーくんのクマパンチが直撃し消滅してしまったのであった。

 残されたのは魔石などと『悪魔の種』だけであった。それを『商会連合』の買取受付に持ち込んだところ、よく分からないまま、貴賓室に通されたのであった。


 そして待つこと十数分、貴賓室に見たことのある人物が入ってくる。


「『豪商』来馬柊…さん」

「やあ、『ぬいぐるみ少女』桜花沙羅。初めまして。噂は聞いているよ。アオっちからだが」

「蒼唯さんから!」

「ベアー!」

「大まかな状況は聞かせてもらったから、詳細をお聞かせてもらいたい」

「は、はい。分かりました」


 蒼唯に断られたのに、蒼唯作の『ぬいぐるみ』ベアーくんを連れている沙羅が解決してくれたという状況は、誰か意図した事ではないが、結果的に飴と鞭のような構図となるのであった。



 


☆☆☆☆☆

書いてて気持ち悪くなったので割愛した討伐シーン抜粋



ベアーくん「ベアー!」


デルビ「ヤバい『迷宮転――」


 そのときデルビは躊躇する。『蠱惑魔』により彬羅に篭絡寸前のデルビは、彬羅から離れることを本能的に躊躇したのだ。


沙羅「あ、倒しちゃった。まだ何か言ってたのに」


彬羅「何か悪寒が…」


ベアーくん「ベアベア!」




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