第143話 知らぬ間に
ダンジョン災害は、数年前から急激に増加していたが、特にこの1年は異常であった。
今起こっている『悪魔化』事件についてもそうだが、稀代の錬金術師である、蒼唯がいなければ探索者業界は致命的な打撃を受けて立ち直れなかったことだろう。
しかし蒼唯について理解している者は、この蒼唯頼りな現状に危機感を覚えている。今回の『悪魔化』にあっても、身近な何人かであれば善意から『悪魔化』の治療を行っただろう。しかし、『小悪魔化』という可愛い要素がなければこれ程大規模なキャンペーンを開こうなどとは、思い付きもしなかったと柊は考えている。
その証拠に、蒼唯は既に『小悪魔化』に飽き始めていた。
蒼唯:「キャンペーンへのお申し込みはあとどれくらいです?」
柊:「あと3分の1くらいだぜ。それと十人程身体が悪魔に変異し始めちまってる奴らがいるって感じだ」
蒼唯:「そっちの方も何とかなりそうですから、やっとキャンペーンも終了の目処がつくです」
『小悪魔化』は確かに可愛らしいが、元々のスキルを改造する都合上、その可愛さに自由度が無い。色々と創意工夫したとしても、全員の『小悪魔化』のフォルムは似たり寄ったりとなってしまう。同じものを造り続けることを退屈に感じる質である蒼唯は、何でも頼み放題キャンペーン中で無ければ投げ出していたかもしれない。
そして何より問題なのは、蒼唯が投げ出した際に誰も蒼唯を引き留められる材料を持っていないことなのだ。
それはそうと、蒼唯がまたさらっととんでもないことを言った。一瞬流しそうになった柊であったが、何とか反応する。
柊:「え? 前に聞いたときは『悪魔化』が進行しちゃってる場合の治療方法は無いって言ってなかったか?」
蒼唯:「前は前です。あったです。『破魔のポーション』です」
柊:「あったって言われてもな…今回の事件についての手掛かりでも見つけたのか?」
蒼唯が『悪魔化』について知ったのはつい先日の事である。そしてその時ある材料では悪魔への変異は管轄外のため出来ないと断言していた蒼唯。彼女は下手に誤魔化したりしない。出来そうなら出来そうと言う性格なので、その時は本当に出来ないと判断したのだろう。
それなのに少しの時間で悪魔に変異した身体を元に戻すポーションを開発した。いくら蒼唯であっても何かしらの切欠が無ければ不可能だろう。
そのため柊は、事件についての調査した結果、新たな手掛かりでも見つけたのかと判断した。であるならば、また『
しかしその予想は裏切られることとなる。
蒼唯:「よく分かりましたですね。ぬいたちが頑張ってくれたので、今回の元凶の目星が付いたらしいです。後でその情報とかもポーションと一緒に送るです? 私たちが持ってても意味ねーですし」
柊:「……意味ない? ぬいやまっくよたちで、元凶を捕まえたりは?」
蒼唯:「です? しないですよ。何かぬいは、新しい茸の食べ方を開発したらしく茸ブーム到来中ですし、そもそも手伝ってくれたまっくよへのご褒美で、私たちを沢山眠らせるって予定が入ってて忙しいですし」
柊:「マジかよ…」
忙しそうには聞こえない予定だが、蒼唯的には真剣なんだろうと付き合いの長い柊は、理解する。
蒼唯:「じゃあ私は、もうひと頑張りするです。送っとくですから確認よろしくお願いしますです」
柊:「ちょっと待ってくれ――」
蒼唯たちがダンジョンブレイクする理由は、世のためでも人のためでも無い。興味の有るものを手に入れる方法としてダンジョンブレイクしているに過ぎない。
『悪魔の種』に蒼唯は興味がなく、話を聞く限りデルビについてもそこまでである。
「…『迷宮転移』スキルを持つ悪魔? 高ランクの探索者にも気づかれずに『悪魔の種』を植え付けてくるような存在だぜ。囮作戦するにしても厳しいだろ」
柊も無意識下で蒼唯頼りになってしまっていたのだと痛感する。
今回のような複雑で、早期解決が難しいダンジョン災害は、いつも蒼唯たちが解決してくれていた故、知らず知らずの内にそんな思考になってしまっていたのだった。
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