第142話 共感する心

 蒼唯とまっくよによる『君も小悪魔にならないかキャンペーン』が開催され次々と『小悪魔化』する探索者が増殖する中、間に合わずに悪魔化が進行してしまった結果、この方法では治療できない者も一定数確認できた。


ぬいはえろ!」

【…あ? はぁーまたか。今回は何の用だ淫魔】

【状況判断が早いわね。茸生活にも随分慣れたようで幸いね】

【御託は――】

ぬいなに?」

【宜しいので、ご用件を仰ってください】


 悪魔化してしまった者を助けるため、そして『悪魔の種』を探索者に蒔き散らしている者の手掛かりを探るべく、『悪魔の種』を産み出した一員である茸を召喚し話を聞くことにした。

 キャンペーン中で蒼唯たちは忙しいため、ぬいとリリスしかいないが、サタンを召喚できる関係上、圧倒的な支配関係を保持しているぬいと前の世界からの顔馴染みであるリリスがいれば事足りるのだ。



【『悪魔の種』か…、確かに我も関わっていたが、人間が悪魔化に耐えられなかったことで放置してたからな、しかも当時、人族の国にばら蒔いて実験していたから、誰が持っていてもおかしくない】

【役に立たない情報ね】

ぬっいそっか…」


 大した情報を持たないサタンを悲しそうな顔で見つめるぬい。焦ったサタンはその明晰な頭脳をフル回転させた。


【た、ただ話を聞くに様々なダンジョンで発生しているのだろう? その特徴から考えるに1人思い当たる者がいる。ダンジョンであれば距離の制限などなく何処にでも出没できる『迷宮転移』を持つ奴がな】


 『迷宮転移』というスキルには、リリスも聞き覚えがあった。

 

【『迷宮転移』って…『神没』のデルビの事? 魔族なのに探索者のようにダンジョンに入り浸ってたあの子?】

【アイツも『悪魔の種』の研究に関わっていた。しかも、アイツのスキルなら複数のダンジョンを転々と移動できる。一番有力なのは奴だろう、目的は分からないが】

ぬいぬいぬいかんけいない


 別に目的など知ったことではない。これまでも、そしてこれからも蒼唯やぬいたち『迷宮の壊し屋ダンジョンブレーカーズ』は、相手の事情や目的など気にせず、ダンジョンをブレイクしていくことだろう。

 その被害者に一匹の魔族が加わるだけだ。


【ただ『悪魔の種』をばら蒔いているなら、その結果は気になる筈だ。『小悪魔化』か? そいつらを囮にすれば簡単に釣れるんじゃないか?】

ぬいなるー」

【まあ、一理あるわね】


 囮作戦を蒼唯が受け入れるかは別問題として、悪くない作戦であった。


【それと一度悪魔化が進行した者を元に戻すにはどうすれば良いか分かるかしら?】

【元に? 折角人という脆弱な肉体から脱却したというのに。愚かだな】

【今の貴方なら彼らの境遇に共感できると思ったのだけど】

【はぁ?】

【もし、蒼唯様が貴方を茸まみれの姿から解放してくれると言ったら戻りたいでしょう?】

【チッ! 『悪魔の種』の詳細のデータを渡してやる。この前、『狂気なマッド』を配下に加えたのだろう? アイツにそれを見せろ】


 前までのサタンには理解できなかった気持ちだが、本体の頭に茸を生やされ、更には茸として現在召喚されている現在のサタンには、元の身体に戻りたいと思う気持ちが分かる。分かってしまうのだ。


 『悪魔の種』のデータをリリスに渡したサタン。


【…もう用は済んだか? ならさっさと召喚を解除しろ】

ぬいたべる!」

【あ、ぬい様。今回はサタンも役に立ちましたのでどうか穏便に…】

【リ、リリス】

ぬぬむむぬいわかった!」


 リリスのお願いをぬいは、少し悩んだ結果了承する。


【じゃあ、早く召喚を――】

ぬいぱく! ぬいぬおいしー】

【え、ぬい様!】


 了承した次の瞬間、ぬいは躊躇なくサタンを食べてしまうのであった。

 流石のリリスもぬいの行動に驚きを隠せない。


【ぬ、ぬい様? なぜサタンをお食べに?】

ぬいたべ? ぬいぬのんだ!】


 リリスに頼まれ穏便に召喚を解除する方法を考えたぬいは、噛まずに飲み込んであげたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る