第141話 簡略版小悪魔

 『豪商』来馬柊の記者会見は、多くの探索者業界の関係者にとって寝耳に水な出来事であった。


「デメリットスキルを起因とする体調不良か…」

「天使司が治療できなかったことをもう少し考えるべきでしたね。考えたからといって特定できたかは、分かりませんが」


 日本の誇る『聖女』でも治療不可な症状、感染症のように広がっていかないだけマシではあったが、それでも原因も分からないため解決の糸口すら掴めない現状から一転、先の記者会見により解決方向に突き進みだしてしまった。

 


「…『君も小悪魔にならないかキャンペーン』か」

「『無職』の際と同様に期間限定ということでしょうか?」

「おそらくな。『悪魔化』の治療をいつ辞めるかも齋藤蒼唯の匙加減ということだ」


 探索者協会にとって蒼唯は扱いは、最大限注意を払わなければならない存在である。

 ただでさえ、一般の探索者とは異なる価値観で動くため対応が難しいが、対応を間違え蒼唯の機嫌を損なえば、各国から非難を浴びることは避けられない。


 キャンペーン、つまり蒼唯のボランティア的な活動である。協会としては、協会側からもお金を支払って正式な依頼としてやって欲しい部分がある。

 仕事であれば、仮に期間限定としてもある程度その期間を把握することが出来る。仕事であれば責任感はある蒼唯は、途中で飽きたからと投げ出すことも無いだろう。しかしその提案をしたところで蒼唯は首を縦には振らないだろう。


「我々が出来ることは、その期間が出来るだけ延びるように努めることと、彼女以外にスキルをどうにか出来る方法を探すことだな」

「…まあ彼女がいなければ原因すら特定できず右往左往していましたからね」


 とはいえ、蒼唯の存在は日本、いや世界中の探索者業界にとって希望であることもまた、変わらない真実であるのだった。


―――――――――――――――


 魔力や生命力を貪り、人々を悪魔にするスキルを改造し小悪魔にしてしまう錬金術師。


「…流石に1日に何十人も相手すると疲れるですね。取り敢えず今日はここまでにしとくです。まっくよ、スキルを眠らせといてくれです」

「まく~!」


 その傍らに、常時発動の受動的パッシブスキルすら、眠らせてしまう黒猫を従えている。端から見ると完全に黒幕である。


 『悪魔化』で苦しむ患者たちが運ばれていた病院に用意された、部屋に戻った蒼唯をぬいと『縫包化』状態のリリスが出迎える。


【お疲れ様でした】

「沙羅のお父さんのときより、色々と簡略化してるですけど、それでも『魂への干渉』は神経使うです。まっくよがスキルを眠らせてくれなきゃ私が倒れちゃうとこです。ありがとうです」

「まく~」

「ぬいぬい!」

「まあ頑張ればぬいも、スキルに干渉できるかもしれんですけど…スキルが茸に蝕まれるのは可哀想ですから諦めるです」

「ぬいー」


 沙羅の父親のときは、沙羅のジョブスキル『おままごと』の効果範囲に引っ掛かるように等細やかな調整をしたが、今回は、デメリットを許容範囲まで減少させることと、小悪魔の可愛さのみに焦点を絞って改造したので、それなりの数をこなせたのであった。


「ただ魔力とか生命力が多い人は、悪魔化が進行してるですね」

【私もチラリと見学しましたが、悪魔と人の子供『半悪魔ハーフデビル』のような状態でしたね】

「肉体を元に戻すのは、私の管轄外なんですよね」

【それが管轄内の方はあまりいらっしゃらないと思いますが…】


 しかし治療が難しい状態の者も何人かいた。身体が悪魔になりかけの者は、原因であるスキルを改造した所で元には戻らないだろう。


「さて、どうすれば良いですかね?」

【そうですね…】


 蒼唯が可愛さに拘らないのであれば、変異スキルである『悪魔化』を改造して変異スキルである『人間化』のようなスキルを造れば解決しそうだなとリリスは思った。

 思ったが、何か色々と恐ろしいので口には出さないのであった。

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