第138話 悪魔化

 父親が『無職ニート』になった。しかもただの『無職ニート』ではなく、『無職ニート』中の『無職ニート』である『精鋭無職エリートニート』となってしまった。


「沙羅、そんな眼で私を見ないでくれ」

「ご、ごめんなさい」


 そんな父親を持つ娘の心境は複雑であった。


「ただの『無職』だと、ジョブに関係しないパッシブスキルを不活性化できないです。今は『無職』でもスキルがある人はいるって話です」

「設定は忠実なんですね『精鋭無職エリートニート』なんてふざけた名前なのに…」

「ふざけてないですよ?」

「それはそれでどうなんでしょうか?」


 この場合、娘の目の前で父親を『精鋭無職エリートニート』に転職させる行為を一切のふざけなしで行っている方が問題がある気がする沙羅であった。


「何はともあれ、私を助けてくれたことに感謝をしなければね。どうもありがとうね」

「まだスキルを不活性にしただけです。根本的な解決はしてないです」


 『精鋭無職エリートニート』化はあくまでも応急措置でしかない。蒼唯の『真理の眼』による鑑定では、沙羅の父親はデメリットスキルを有していた。


「お父さんはどんなスキルに苦しめられていたんですか?」

「『悪魔化』ってスキルです。視た限り嫌な感じのスキルですね」

「あ、『悪魔化』か…」


 蒼唯の鑑定した結果、『悪魔化』は、常時魔力を消費する代償を支払う代わりに高次元の力を与えるスキルである。これだけ聞くとよくある強化スキルのようであるが、幾つか問題がある。1つは与えられる力が強すぎて、並みの人間の肉体では耐えきれない点である。

 更に、強化の代償として要求される魔力量が莫大であり、魔力が足りない大半の人は、強制的に生命力を消費してしまう点であった。


「それに、スキルに耐えられなくなって心も身体も悪魔になるなんて、強化スキルのように見えて変異スキルなんですね」

「変異…そんなスキルをお父さんはどうやって習得したの?」


 強化スキルにしろ変異スキルにしろレアなスキルであることに違いはない。そんなスキルを一般的な探索者が急に習得するのは、あまり考えられることではない。


「まったく心当たりがないな。スキルを習得していたのにも気が付かなかったからね」

「そこら辺は私の知り合いが色々と調査してるですから、直ぐに判明すると思うです」


 取り敢えず今は沙羅の父親をどうするかが大切である。


「それで『悪魔化』はどうするです? 折角のレアスキルですし、改造して使えるようにするです?」

「そうしていただけると助かりますがよろしいのですか?」

「別に構わないですよ。というか、完全に消し去るよりは改造の方が楽です」


 ということで、『悪魔化』を沙羅の父親でも使いこなせる程度のスキルに改造することになった。

 しかし娘としては父親が蒼唯が作り替えるとは言え、危険なスキルを保有するのは心配なのか、沙羅は不安そうであった。


「大丈夫です?」

「…お父さんが悪魔になっちゃったら困っちゃいます」


 当然の言葉である。蒼唯としても沙羅の言葉は理解できる。

 そこら辺は彼女もしっかりと考えているのだ。


「やっぱり父親が悪魔になっちゃったらと思うと怖いですからね。娘経験のある私もそこら辺は考えたですよ」

「蒼唯さん! …娘経験?」

「悪魔じゃなくて『小悪魔化』なら可愛さもあって怖くなさそうです」

「お父さんが小悪魔になっちゃったらもっと困ります!」


 直ぐに蒼唯の手によって再就職される予定ではあるが、父親が一時でも小悪魔系精鋭無職エリートニートになった姿は想像したくもない。


「経験を、もっと娘経験を生かしてください!」

「え? 小がつくだけで可愛さ増しません?」

「そういう問題ですか!?」


 という普通の感性は蒼唯には無いようで、流石に『ぬいぐるみ』仲間で趣味が合う沙羅も困惑してしまうのであった。

 

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