第139話 悪魔の種

『悪魔化』は変異スキルである。そのため前にリリスへ『縫包もふもふ化』を授けた経験のある蒼唯からすれば、『悪魔化』に干渉し別のスキルに変化させることは難しくない。


 最初は『小悪魔化』という言葉に難色を示していた沙羅だったが、蒼唯のイメージする小悪魔が、マスコット的な可愛さを持つ感じであったこともあり納得する。

 当事者である沙羅の父親は


「『人形遣い』に転職した沙羅の『おままごと』のバフが乗るようなスキルにした方が良いと思うですから、人形かわいらしさは必要です」

「そ、そうですか」


 娘と探索できるかもという一言に釣られる形で納得するのだった。


 沙羅の父親から取り敢えず『悪魔化』の脅威は去った。しかし何故沙羅の父親が『悪魔化』を習得してしまったのかという謎が残ったままである。


「覚えてないか、本当に気が付かない内に習得したのかですね」

「は、はい」

「そう簡単にスキルなんて習得できない筈ですし、何らかの切欠は必ずあると思うですけど」

「蒼唯さんがそんなこと言ってもあんまり説得力ないですよ」

「そうです?」


 確かに『錬金術』と『魂への干渉』によりスキルのみならずジョブ等も自由自在に造り出せる蒼唯を見ていると、スキルを習得させるなど簡単なことのように思えてしまうのであった。


―――――――――――――――


 探索者の集団体調不良の原因を探るべく、1人情報収集をしていたリリス。

 倒れた探索者たちの共通点は、ダンジョン探索から帰還した後に、突然体調不良を訴えたということ。また最後のダンジョン探索の記憶を鮮明に覚えていないということであった。


【本来、誰の記憶にも残っていない事象の調査は難航する筈なのですが】

「まく~」

【『記録の回廊』…本当に壊れた性能をしていますね。分かっていたことですが】

「まくまく」


 普通なら難航する調査でもリリスたちには関係ない。蒼唯作の見たい記録を映し出すアイテム『記録の回廊』と、それを動かすために必要な魔力を大量に産み出せる『魔力炉』持ちのまっくよのコンボは、大抵の調査難易度をイージーにしてしまうのだ。


 体調不良で倒れ協会が管理している病院に運び込まれた探索者たち。本来なら厳重なセキュリティで守られている彼らだが、リリスが協会内部に送り込んでいる下僕の手引きで簡単に、探索者たちの記録を覗き見る事ができるのであった。


 探索者の記録を漁っていると、全ての記録にフードで顔を隠した怪しげな者が登場していることが分かった。さらに詳しく見てみると、その者は探索者に向かって何らかのアイテムを使用しているようであった。

 何度も記録を確認したリリスはそのアイテムに見覚えがあることに気が付く。


【あれは『悪魔の種』?】

「まく~?」

【昔、敵である人間を悪魔にして戦わせようって陰湿なサタンが魔族の錬金術師たちと共同して開発した失敗作です】


 種を植え込むと宿主の魔力や生命力を喰らって成長していき、変異スキル『悪魔化』が発芽すると肉体だけでなく精神も悪魔に染まっていく中々に画期的な代物であった。

 しかし悪魔への変異に耐えられる人間がいないという根本的な問題があったことから、研究は途中で打ち切られた筈であった。


「まく~」

【あのサタンは人間への嫌がらせが仕事のようなものでしたから、昔話をすれば悪行しか出てきません。それよりも問題なのは誰が『悪魔の種』なんて代物を所持しているのかという点です】

「まくまく!」

【…取り敢えず今回の騒動の原因は判明しましたので、一旦蒼唯様方と合流しましょう】

「まく~」


 謎の存在は気になるが、既に沙羅の父親の治療については完了していると連絡が入っていた。

 これ以降の話に首を突っ込むかどうかは、主である蒼唯が判断することであろう。


【『悪魔化』なんて蒼唯様の興味が引かれないスキルなど、普段なら放って起きそうなものですが…キャンペーン中ですからね】

「まく~」


 そんな予想を持ちつつ一旦帰路に着くまっくよとリリスであった。

 



 


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