第136話 人の振り見て

 可愛いモノを造り出したいという欲求に正直に生きている蒼唯であるが、この間、『狂気の研究所』のダンジョンマスターである、グリシアに人格スキルを付与した一件で、一点だけ不満に思う部分があった。


「いつも可愛い可愛い言ってる自覚はあるですけど、そんなにです?」


 グリシアに付与した『蒼の人格』は、蒼唯の中でも可愛いモノ好きの部分が強調された人格だと考えていた。普段の蒼唯は別に可愛いを連呼するタイプではないため、たまたまそういった人格が抽出され、増幅したのだと分析した。

 それでもダンジョンマスターが憔悴するほど可愛いを連呼する人格が内に眠っているのはどうなのかと蒼唯自身思わなくはないが。

 

 しかし口にはしないが、リリスたちは特に強調などされていない、蒼唯の人格そのままがイコール『蒼の人格』だと考えている節があった。

 特にリリスは、グリシアが憔悴している様子を見て、蒼唯様の人格だからなと思っている様子であった。

 

【そこまで直接的には思っていませんが…】

「少しは思ってるってことです! 私も年がら年中、可愛いモノの事ばっか考えてない筈です」

「ぬい?」

「まく~」

「ま、まあ全ては可愛いに繋がってるですから仕方ない部分もあるのは理解して欲しいです」

【何の言い訳ですか? その言い分だと基本的に可愛いモノの事を考えていることになると思うのですが…】


 ぬいやまっくよの視線を受けて、言い訳をして自爆する蒼唯に追い討ちを掛けるリリス。

 蒼唯としても可愛さ優先である自覚はあったが、初めて自分の様子を客観的に見て気恥ずかしいのであった。


 蒼唯はその気恥ずかしさを誤魔化そうとした。

 

「…私がそればっか考えていないって事を証明するです!」

【そうですか】

「ぬい?」

「まく~」


 別にリリスたちも『蒼の人格』イコール蒼唯本人とは考えていない。常識はなくとも良識はある蒼唯である。

 優先順位はしっかりと決められる。探索者協会や知らない探索者の変な頼みは、可愛さ重視で断れど、人命に関わる事や、真摯なお願いを無碍にする事はないのだ。


「ということで、誰かから依頼があっても私は断らんですよ!」

【…どこら辺がということでなのかは分かりかねますが、承知いたしました。ですが受ける前に私にもその依頼の内容は確認させてくださいませ】

「分かったです!」



 そんな蒼唯だが、寄せられる全ての依頼を無制限に受けてしまったら、世界のバランスは完全に崩壊するだろう。

 そう考えると蒼唯が可愛いモノに関する依頼か、蒼唯でなければ解決不可能な依頼のみ受けるというのは、良いバランス調整なのかもしれない。


 そのバランスが蒼唯の謎のやる気によって崩れそうになったため、ブレーキ役も大忙しの予感である。


「ぬいぬい!」

「まく~」

「お菓子欲しいですか? リリス、良いです?」

【そうですね。 3時のおやつを食べたばかりですし…少しだけなら良しとしましょう】

「ぬい!」

「まく~」


 ただ良い子の蒼唯は、リリスのお願いを素直に聞いて、どんな依頼をされたか報告してくれるだろうし、リリスがストップを掛ければ依頼を受けないであろうため、それほど問題にもならないかもしれない。 

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