第135話 魔王の肉体

 リリスたちが元々いた世界では、敵対勢力の魔族のみならず、同族である筈の人族からも『狂気なマッド』と呼ばれ恐れられていたグリシア。

 

【分かった、分かったから。後で可愛いモノを造るから少し待っていてくれ】

【…サタンよりはマシなのかしら?】

「ぬいぬい!」

「マシとは失礼です」


 危険な研究を強行した者が、精神を別のナニかに乗っ取られると言えばありがちな末路にも思えるが、今のグリシアは、台詞だけ聞くと子供に玩具をねだられた母親のようにしか思えないのであった。


 今回、リリスたちは『狂気の研究所』にあると思われる『魔王』に関連する何かを見つけるべくダンジョン攻略を行ったが、リリスの推測は的中していた。

  

「それで、これが『魔王の肉体』ですか。…確かに魂が感じられんです」

【私がコレを解析しろって受け取ったときには既にこんな状態だったよ。おそらく、魂は別の場所で封印されてるんじゃないのか?】

「成る程です…リリス?」

【…はい、大丈夫です】


 魂のない脱け殻状態の肉体ではあるが、久しぶりの魔王との対面に何とも言えない表情を浮かべるリリス。


「魂の封印場所に心当たりはあるです?」

【私にこの肉体の解析を依頼してきたのは神聖王国の連中だからな。そこと所縁のある地じゃないか?】

「リリス? その神聖王国とやらに関係するダンジョンはあるです?」

【いえ、現時点では出現してきておりません】

「となると今すぐに元通りにするのは難しそうです…あっそうだです!」

【蒼唯様、お心遣いは恐縮なのですが】


 蒼唯が何かを思い付く。魂のない肉体を見て、『魂への干渉』スキルを持ち、この世界で唯一と言っても良い魂の専門家である蒼唯が何を思い付いたかおおよそ分かったリリスは、蒼唯が何か言う前に断りの言葉を述べる。


「まだ何も言ってないですよ?」

【聞かなくとも何となく蒼唯様のおっしゃることは想像がつきますが、どんな事をお考えでしたか?】

「肉体に残留した思考の残滓などを混ぜ合わせれば、グリシアに造ったみたく、『魔王の人格』的なスキルも造れるかもです?」

【大変恐縮ではございますが結構です】

「まあ『蒼の人格』はグリシア本人の魂がある前提のスキルですから、人格スキルを主の人格にするのは少し無理があるですね」

【少し?】


 蒼唯の少しとリリスたちの少しには壮絶な解離があるようであった。


 結局、魂の在りかが判明しないことには肉体だけあっても難しいという結論になったため、『魔王の肉体』は取り敢えず『狂気の研究所』、既に別の呼び方で呼ばれ始めているが、そこでこれまで通り保管されることとなった。


「リリスには悪いですけど、家に肉体を保管できる設備もねーですしね」

【いえ、前までの彼女には危なくて任せられませんが、今の彼女には協力な監視者がいらっしゃいますので安心です】

「そうです? ならよかったです」


 リリスとしても、自身のダンジョンか、それが難しいのであれば蒼唯の家で管理をして欲しいとは考えたが、ある意味では『狂気の研究所』も蒼唯の家の一部になったようなものなので、特に不安に思うことはなかった。


【わ、分かったから。直ぐに作業に取りかかるから。頭の中を可愛いモノで埋め尽くすのは止めてくれ!】

「グリシアに付与した私の人格は、可愛いモノに対する欲求に正直すぎでしたね」

【…そうですね】


 あんな状態で蒼唯たちに不都合な悪さをすれば、より大きな苦痛となって自分に帰ってくることになることは、グリシアも分かっているからである。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る