第132話 暴走する思考

 『狂気の研究所』の奥へ進めば進むほど、可愛さに振り切った『合成獣キメラ』が増えていく。そしてその『合成獣キメラ』を補食したぬいたちは、『合成獣キメラ』たちから蒼唯の『錬金術』の味がすることに気が付く。


ぬっいぬやっぱりー、ぬいあおー」

まくまくちょいびみょ~」

【3時のおやつに蒼唯様のアイテムを頬張るぬい様方が蒼唯様の『錬金術』の味を間違える訳はありませんね。ですが微妙ですか。蒼唯様の『複製体クローン』でもいるのでしょうか?】


 同じダンジョンマスターとして、ダンジョンの機能を完璧に使いこなせたとして、蒼唯の完全なコピーを造り出せるとは微塵も思わないリリス。だが、ぬいとまっくよのお陰で蒼唯の力が使われていることが確定した今、それの対策を考えなければならない。

 しかし可愛いモンスターから蒼唯の力が感じられるということは、力だけでなく思考も蒼唯のコピーなのであろう。となれば蒼唯の性格から対策を考えれば良い。


【蒼唯様は興味のあるものには、突撃してしまうほど無鉄砲なところがあります。戦力差が大きく、危険だと理性で判断するような場所でも興味のあるモノがあれば来てしまう筈です】

ぬいぬいそうだね

まくまそうそ~」

【…となると小細工をしなくとも、このまま普通に探索していれば蒼唯様のコピーが目の前に現れるのでは? たかがダンジョンマスターに蒼唯様を統制できるとは思えませんし】

ぬいぬーますたー

まくあお?」

【ダンジョンマスターが蒼唯様の力と人格を取り込んでいたらですか? まあ『合成獣キメラ』の研究者ならばあり得ますか。ですがその仮定に意味はありません。先程も申し上げましたが、たかがダンジョンマスターに蒼唯様を統制できる筈がありませんので】

ぬいそか!」

まくだね~」


 蒼唯の怖さはダンジョン外でこそ発揮される。ダンジョン内に引きずり出され、さらに劣化版であれば怖さは半減以下であろう。

 そのためリリスたちは悠々とダンジョンを進んでいくのであった。


―――――――――――――――


 ダンジョンマスターはマスタールーム等の安全な場所にいることが多い。ダンジョンマスターが、ボスとして探索者の前に現れることもあるが非戦闘系のマスターはそれもしない。『狂気の研究所』のダンジョンマスターもそういった安全地帯引きこもり系であった。

 しかし今、彼女は取り込んだ力に付随した思考に蝕まれ暴走していた。


【止まらない…です。くそ、あんな…可愛い化け物の前に出るなんて自殺行為なのに…です】


 マスタールームの監視設備でぬいたちの活躍を見てしまったことにより彼女は、身体の制御権を奪われてしまったのだ。

 一応、『合成獣キメラ』は連れているがぬいたちとは比較にならないほど脆い性能であるため、壁役にもならないだろう。それが分かっていてもぬいたちの元に行く足を止めることは出来ない。


「ぬいぬい?」

「まく~!」

【…あれは、『狂気なマッド』グリシアですね。成る程、ここは彼女の研究所でしたか】


 遂に彼女は『ぬいぐるみ』たちの元にたどり着いてしまう。


【…そういう貴方は『魔王』の配下『夢魔姫サキュバスプリンセス』リリス…ですね。成る程、世界を移っても配下は配下ということ…ですね。ああ…『ぬいぐるみ』可愛いです】


 しかも自分が研究している『魔王』の配下の1人も一緒にいた。監視設備で見ていた筈なのに、リリスに目がいかないほど思考が蝕まれていたのだろう。


【…大分侵食されているですね。元の彼女なら死んでも言わないような台詞です】

「ぬい!」

「まく?」

【いえ、けっしてぬい様とまっくよ様が可愛くないという意味ではなくですね…】

【はは、貴方も前の世界とは随分変わったようじゃない…です?】


 それとも『ぬいぐるみ』を敬うような変わり果てた様子からリリスだと認識出来なかったのかもしれない。


【それは否定しないけれども。貴方が変わった原因も私が変わった原因も同じなのよ?】

【それはどうい――】

「まく~」

【こと…で、す?】


 そんな会話をしている間に『狂気の研究所』ダンジョンマスターである、グリシアは突然の睡魔に襲われ意識を手放すのであった。


 

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