第131話 暗黙の了解

 『狂気の研究所』に突如として出現した可愛さ全振りの『合成獣キメラ』。普通に考えれば低ランクのダンジョンの浅層に出現してきそうな見た目をしているが、その見た目に反して漂ってくる強者の風格に、既視感を感じるリリスたち一行。


【私が蒼唯様たちの配下になる前に、実は攻略済みであるなんて事はありませんか?】

ぬいないー?」

まくまくおもうよ~」

【可愛い方が強い時点で蒼唯様と無関係には思えないのですが…まあ蒼唯様全面監修ならば中途半端におぞましい見た目の『合成獣キメラ』など残しませんか】

ぬいだねー」

まくまくそうそう~」


 蒼唯味を感じるダンジョンではあるが、蒼唯が直接的に関与しているにしては中途半端な出来映えである。

 蒼唯が本格的にダンジョン探索に関わりだしたのは、ぬいやまっくよたち『ぬいぐるみ』を製作し出してからであるが、探索者関連の記憶は当てに出来ないでお馴染みの蒼唯である。適当に造ったアイテムが何らかの拍子にダンジョンやダンジョンマスターを侵食し、蒼唯色に染まったダンジョンが産まれていたとしてもオカシクない。


サタンという実例がある以上、その可能性は否定できませんからね】

ぬいぼくぬいぬいやってないよー」

まくまほんと~?」

ぬいぬいぬいほんとだもん!」

【ぬい様がばら蒔いた胞子を疑っている訳ではありませんよ。それに蒼唯様の思考に染まったとして技術がなければ、ただの可愛いモノ好きなだけですから】


 このダンジョンは不完全ではあるだろうが、強さと可愛さを両立させているためリリスは警戒しているのである。

 ただし


ぬいぬおいしー」 

まくだね~」

【本家本元には及ばないのは良かったですね、本当に。まあダンジョンマスターを引きずり出せば真相もわかるでしょう】


 強いといっても、ぬいたち『迷宮の壊し屋ダンジョンブレーカーズ』には劣る愛玩合成獣キメラたちのため、過度な警戒はせずに進んでいくことにするのであった。


―――――――――――――――


 『狂気の研究所』は、研究者が造り出した『合成獣キメラ』を防衛のため解き放つという設定上、群れなどで襲い掛かってくる事が比較的に少なく、採れる素材もそこそこ良いため少人数パーティー等に陰ながら人気のダンジョンであった。

 ただ『合成獣キメラ』は、様々なモンスターの特徴を併せ持つため、モンスター知識に乏しい素人の手には余るモンスターであるため、ベテラン探索者が良く来るダンジョンであった。


「さてと今日もダンジョン攻略に精を…」

「あん? どうした? 何かあった…」


 2人のベテラン探索者は、『狂気の研究所』に入場した瞬間、即座に異変に気が付く。


「茸が生えたモンスターや熟睡中のモンスターが何体か残されてるってことは?」

「『迷宮の壊し屋ダンジョンブレーカーズ』がいらっしゃってるってことか。しかも2匹とも」


 最近、探索者業界に出来た暗黙の了解が出来た。それは茸を生やしたモンスターと熟睡しているモンスターが一緒になってダンジョン内に放置されていた場合、攻略を打ち切れという、前までならば誰も従わなかったルールである。


「俺は協会に戻って駆け出しがここに近付かないよう誘導してもらうように頼んでおく」

「頼んだ。俺はここで注意喚起しとくぞ。2匹いるってことはそう遠くない間にブレイクが起こる可能性があるからな」


 しかし幾つものダンジョンを崩壊させてきた実績と、崩壊させたダンジョンは軒並み何らかの致命的な問題が生じていたという事実が明らかになっていくに連れて、その暗黙のルールを守る探索者も増えていくのであった。


「これの意味を知らない駆け出しも危険だが、『蒼の錬金術師』の信者、『ぬいぐるみ同盟』がこれ見かけたらダンジョンに突っ込んでくのは目に見えてるからな。痕跡隠しも頼むぞ」

「了解」


 こうした善良な探索者の陰のサポートもあり、ぬいたちが『迷宮の壊し屋ダンジョンブレーカーズ』活動を行えているとも言えるのであった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る