第130話 おぞましいより怖いもの

 『狂気の研究所』にやって来たリリス、ぬい、まっくよの3人。本来的にはぬいかまっくよの何れかは、蒼唯の護衛に残るのが理想なのだが、今回の目的は『魔王』の複製体クローンの捜索であり、ダンジョンマスターを引っ張り出すのに『迷宮の壊し屋ダンジョンブレーカーズ』の2匹は必須であった。


ぬいぬいだいじょうぶ?」

まくまくどうかな~」

【秀樹様とこはく様がお残りになって下さりましたから、余程の事がなければ大丈夫だと思いますよ】


 そのため秀樹たちに蒼唯の護衛を頼み、ぬいたちの同行を可能とした。

 

ぬいはえろー」

まくねろ~」

【高性能な『合成獣キメラ』とぬい様方の敵では…ん? あれは?】


 ぬいとまっくよのコンボはいつも通り出てくる敵を蹴散らしていくため、今回も直ぐに攻略できると考えられた。

 しかしリリスたちの目の前にどことなく既視感を覚える『合成獣キメラ』が現れたことで風向きが変わるような感覚を覚えるリリス。


 『合成獣キメラ』を造る目的は、究極の生命体の創造であり、あらゆる生物モンスターの長所を詰め込むことで、既存の生物を超越する研究と言える。そのため多種多様なモンスターの特徴を詰め込んだ『合成獣キメラ』の外見はおぞましいモノになることが多い。

 現に先程まで出現していた『合成獣キメラ』はそのような外見であった。だと言うのに、現在リリスたちの目の前に現れた『合成獣キメラ』はと言うと、


【可愛い、ですよね?】

ぬいぼくらー」

まくにてる~」


 マスコット的な可愛さを含んだ、『ぬいぐるみ』的な外見をしていた。

 

【いやいやいや、凄く嫌な予感がするのですが…】

ぬいあれー」

まくまつよそ~」


 リリスにとってはどんなにおぞましい外見よりも可愛らしさを追求したような外見の方が、恐怖を覚える身体になってしまっているのであった。

 そしてぬいたちの『食トレ』レーダーも、先程までの『合成獣キメラ』たちよりもこっちの方が強敵であると言っているのであった。


―――――――――――――――


 『狂気の研究所』に設けられた研究室で、一人で黙々と作業をする者がいた。彼女の研究目的は、キメラやクローンを使い生物の限界を超越することであり、それらの技術を自分に施し自分自身が『超越者』となることにあった。

 そんな野望を秘めた彼女も、元々の世界では限界を迎えていた。しかし、この世界でダンジョンマスターとなった事によりダンジョンの力を借りて彼女の研究は大いに捗った、筈であった。


【ふははは、元の世界でも最強の権能を有した『魔王』を素材に出来るとはな…です。 これを使えばより恐ろ…可愛い『合成獣キメラ』が…できるです!】


 しかし彼女の存在は、この世界で自身に移植した力の一つに蝕まれ始めていた。

 『狂気の研究所』を探索しに来た探索者から奪ったアイテム。それを造り出すために使用したであろうスキルの残滓。これをこれまでの研究成果とダンジョンの力を用いて増幅させ取り込むまでは良かった。

 取り込んだ力により、より高性能な『合成獣キメラ』や『複製体クローン』を産み出せるようになった。これで最強の生命体を造り出せると思っていた。しかしその代償に、


【はっ! ま、またマスコット然とした『合成獣キメラ』を…造ったです。 くそ、変な口調も直らん…です】


 気が付けば可愛いを追求してしまうように思考が蝕まれてていまったのであった。 


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