第133話 蒼の人格

 『魔王』の痕跡を探すために『狂気の研究所』へ赴いてたリリスたちが帰ってきた。1人の女性を連れて。


「誰ですそれ?」

【『狂気の研究所』のダンジョンマスターです】

【グリシアと申す…です。 よろしく…です】

「今回の目的は『魔王』だったと思うですけど、何でダンジョンマスターを連れてくる事になったです?」


 ダンジョンマスターを拉致してくるだけなら問題はない。本来は大問題であるが、ぬいやまっくよにより歪められた蒼唯の常識的には問題はない。

 しかしそのダンジョンマスターを蒼唯の家に連れてきた意図が分からないのだ。特に今回の攻略の目的はダンジョンでも、その管理者たるダンジョンマスターでもなく、リリスの元上司の『魔王』であるのだから。


【あの方の手掛かりも入手出来ましたが、それよりもぬい様とまっくよ様が此方に興味津々だったものでして】

「ぬいー」

「まく~」

「よく分からんですけど、ぬいたちが人に興味を持つなんて珍しいですね」

【ここまでの経緯を説明させていただきますね】


 疑問符を浮かべていた蒼唯であったが、リリスから事の経緯を説明され納得する。

 確かに『真理の眼』でグリシアを視れば、見覚えのある力に侵食されている様子が分かる。


「性質の違う2つの魂が1つの身体に存在してる状態でも似たような事が起きてたですね。運が良ければ強い方が残った状態で定着するですよ」

【う、運が良ければ…です? 弱い方が残れる可能性はない…です?】

「弱い方がです? 無いです普通」

【そ、そんな…です】

 

 蒼唯の言葉に絶望的な表情を浮かべるグリシア。複数の魂が存在していると大抵、侵食し合い、互いにボロボロになって魂という呈をなさなくなって廃人化するのが普通であり、強い方が定着するのもかなりの幸運が必要である。

 2つの魂の共存を考えれば、並みの存在では、スキルを少し詰め込んだだけで許容限界キャパオーバーで崩壊してしまうのだから、魂という容量を食うモノであれば2つであっても難しいと言える。


「ぬいー」

「まく~?」

「何とかです? …取り敢えず力だけを取り込みたかったのに、人格とかも付随しちゃってたから困ってるですね?」

【は、はい…です】

「はぁーです。あんまり気は進まんですけど、グリシア? お前の魂をコネコネしていいなら手はあるですよ?」


 魂を弄くり回される。自身の身体すら実験の材料としていたグリシアでも躊躇する提案であったが、このままでは蒼唯の劣化コピーと成り下がるだけであると分かっている彼女は、熟考の末決断するのであった。


 蒼唯は即座に材料を揃え、魂を弄くる準備を整える。


「もう少し混ざり合う前なら、どっちかの人格を別の入れ物に移し変えれたですけどね。ここまでの混ざってるとムズいです」

「ぬい?」

「まく~」

「なのでこの人の当初の目的通りにしてあげるです」

【当初の目的ですか?】

「そうです。この人は私の『錬金術』を得たかったですよね? つまりスキルです。でも人格が付随してたから上手くいかなかったです」

【そうですね…え?】


 であればグリシアの魂を侵食している人格が付随した蒼唯の力ごとスキル化してしまおうと言うのが、今回のプランであった。


【そ、そんなこと可能なのでしょうか?】

「可能かどうかはやってみれば分かるです! 行くですよ『魂への干渉』『錬金術』!」


 つまり行き当たりばったりということであるが、それこそ蒼唯の得意分野であった。


「良い手応えです。『真理の眼』で視ても特に問題は無さそうです?」

「ぬいー」

「まく~」


 ぬいたちが魂を弄くられた影響からか、ぐったりしているグリシアに近づいていく。すると、先ほどまでとは雰囲気が別人となったグリシアがそこにいた。


【…成功はしたらしい。『蒼の人格』というスキルを得たみたいだ】

「おお、それは良かったです」

【お礼を言うべきなのだろうが1つだけ確認させてくれ。このスキルが先ほどから、頭の中で可愛いモノ造りの布教を延々としてくるのだが、これはどうにかならないか?】

【頭の中に蒼唯様が…】

「ぬい!」

「まくまく!」

「成る程です。つまり私の人格の中でも特に可愛いもの好きな一面がグリシアが取り込んだ力? の中にあったってことですね」


 グリシアの言葉に、ゲンナリするリリス、興味津々なぬい、まっくよ。そして冷静に分析する蒼唯と四者四様の反応を示すのであった。

  

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