第127話 特別講義

 リリスたちが『吉夢の国』を襲った黒幕探しに奔走している一方で、普段通り学校生活を送る蒼唯。蒼唯は今、彼女が通う高校でたまに行われる探索者を招いての特別講義を受講する所であった。

 

 現在の探索者業界は、過去に例の無いほどのダンジョン踏破率を記録していた。

 『転職の神殿』が攻略され『転職の間』から転職した探索者たちは、才能消失など転職当初は混乱が生じたものの、すぐに新たなジョブに順応したことで、未知の領域をも踏破できる実力を得たのである。


「最近は大手のギルドも攻略を失敗することが多かったし、国際探索者協会の炎上とかも含めて、探索者になりたい人とかも減少傾向か? みたいなこと言われてたけど、これなら大丈夫そうだよね」

「そうなんです?」

「蒼唯の影響で生産系のジョブに転職しようとする探索者が爆増してるらしいよ」

「へーです」

「興味なさそ。蒼唯らしいけど。…そんな蒼唯が探索者さんを招いての特別講義を受講するなんて信じられない変化だよ」

「講師の人は、『流星』に所属してる生産系ジョブの人ですよね? 私も少し関係あるですし、興味が湧いたです」


 蒼唯たちの通う学校は、探索者業界と繋がりがあるため、選択授業でダンジョンや探索者についての授業があったり、特別講師を招いて講義を行ったりしている。

 とはいえ、本来、探索者として人気なのは、戦闘系ジョブであり、生産系ジョブは不人気な場合が多い。特に探索者の現実を知らない学生たちは特に。

 しかしこの学校の学生は例外である。何と言っても生産系ジョブを持ちながら、現在の探索者業界で一番有名と言っても過言ではない者が在籍しているのだ。


「というかこの特別講義を選択したら、先生にも驚かれたです」

「そりゃね」

「そんなにです。まあこれまで興味無かったのは事実だけどです」

「それだけじゃないけどね」


 この学校の学生としては、探索者業界に一切興味を示さないのは少数派であるため、そこそこ目立つ学生ではあるが、突然探索者に興味を示したとしても先生もそこまで驚かない。それよりも世界トップの『錬金術師』がいまさら、学生レベルの授業を受けようとすることに驚いたのだと輝夜は考えるのであった。


「というか、そんな蒼唯に見られながら講義するって凄い大変そうだよね。今日の講師で呼ばれてるのは玉城さんか…可哀想にな」


 そしてそんな蒼唯の目の前で生産者として講義をしなければならない同じギルドの先輩に輝夜は、同情するのであった。


―――――――――――――――


 戦闘系の探索者が探索者育成に特化したエリート校に講師として招かれて、学生に後れを取り恥をかくと言った話を聞き笑っていた過去の自分をぶん殴ってやりたい気分の男がいた。

 日本の探索者ギルドで一位二位を争う実力の『流星』の生産部門でそこそこの地位にいる自分だが、中堅どころであった『流星』を瞬く間に日本トップクラスのギルドにした立役者であり、『蒼の錬金術師』として圧倒的な知名度を誇る彼女と比べたら塵のような存在である。


「彼女の目の前で講義をする? しかも周りの学生たちが『蒼の錬金術師』を基準にしてしまっている環境で? 地獄かよ」


 少し探索者育成に関心のある、ごく普通の一般校からの講義の依頼。特に気にせず受けてしまった後に蒼唯の学校だと言うことが判明した。とはいえギルドマスターの星蘭や友人だと言う輝夜に聞いていた性格から講義を受講することはないだろうと思っていた所にこれである。

 

「絶対、俺なんかより『蒼の錬金術師』が講義した方が有意義だろうがよ! あぁ、胃痛が…」


 凄まじい緊張により胃が痛む玉城。彼が幸運だったのは、蒼唯が講義中に質問するような積極的な学生ではなかったことであろう。もし蒼唯が積極的な学生であったら玉城の胃は爆散していたことであろう。

 

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