第124話 未確定な災厄

 蒼唯は、リリスが『吉夢の国』から持ってきた『災厄パンドラの小箱』を弄って遊んでいた。


「開けると付与されたスキルが発動する仕組みですね。開けるまで出てくる『災厄』は決まってなさそうですし、『災厄』の大きさに応じて最後のアイテムの性能も変わるっぽいのも面白いです。流石リリス、お土産のセンスが良いです」

【お土産ではありませんよ。蒼唯様への報告用にお持ちしただけで…まあ蒼唯様が無害化してくださるならお土産ということで構いませんよ。今後のこともありますし】


 リリスとしては蒼唯に取り上げられることは分かっていたが、報告のために持ってこざるを得なかった『災厄の小箱』だが、結果的にこの『災厄』を処理できる人物は限られている。更にこの世界に『災厄の小箱』が出現したということは、本家本元の『災厄の箱パンドラボックス』もいずれ出現するかもしれない。

 その予行練習のためにも、蒼唯に『災厄の小箱』を触らせておくべきだと判断したリリス。


「まかせるです。それでこの箱を持ってた人たちの目的は何だったです?」

【彼らは反ダンジョン派閥の過激派でしたね】

「過激派です? そんなのいるです?」


 ダンジョンに日常を奪われた結果、ダンジョンを恨み、この世からダンジョンを滅ぼそうと活動する過激派。

『吉夢の国』は、ダンジョンブレイクを起こすと人間側に有益なダンジョンになると言われ出した由縁のダンジョンであり、彼らからすれば人とダンジョンが共存する未来を暗示させる『吉夢の国』は、真っ先に滅ぼすべきダンジョンであろう。


【ただ『災厄の小箱』の入手経路は謎のままでした。誰かから貰ったらしいのですが、その者の記憶がないようでして】

「記憶です?」

【可能性の話ですが、過激派を裏で操る黒幕がいるかもしれません」


 過激派の目的は分かりやすいが、彼らに『災厄の小箱』を渡した者の目的が見えてこない。


「それにしても過激派なんてです。ダンジョン自体に戦いを挑むなんて無謀じゃないです?」

【蒼唯様の周りにダンジョンを相手圧勝する猛者がいらっしゃいますことをどうぞお忘れなさらないでください】


 蒼唯の言うことは本来正しい。ダンジョンに単騎で勝利する『ぬいぐるみ』たちが異常なのだ。しかもダンジョンブレイクが起こった後のダンジョンは人間に有益になる傾向がある等とネット界隈で言われているが、そもそもどうすればダンジョンブレイクが引き起こされるのか、蒼唯たち以外の者は知りもしないのである。


「じゃあです。実験だったんじゃないです?」

【実験とは?】

「人間に有益なダンジョンをもう一度ダンジョンブレイクしたらどうなるのかのです?」

【それは…】

「あ、でもです。まだぬいやまっくよ以外だとダンジョンブレイクは起こせてないですよね。ってことは人為的にダンジョンブレイクを起こすための実験とかです? それなら安全そうな『吉夢の国』でやろうとしたのも分かるです」

【そんな実験をやる者がいるなんて、まるで蒼唯様のような…】


 狙ってダンジョンブレイクを起こそうとする。リリスは黒幕が蒼唯のような相手であるかもしれないと最悪のシナリオが頭を過る。


「大丈夫です? っとこんな話してたらこっちも完成したです」

【あ、もうですか。流石は蒼唯様。『災厄の小箱』を無害化したのなら『希望の小箱』とかになったのでしょうか?】

「なんですそれ? これは『未確定シュレディンガー災厄パンドラ』です。箱を開けると半分の確率で災厄が、もう半分の確率でまっくよが召喚されるアイテムです」

【え、なぜそんな代物に? しかも何故にまっくよ様?】

「箱を開けたらまっくよが出てくるとか可愛くないです?」


 開けるまで確定していない災厄という部分から、『シュレディンガーの猫』をイメージした蒼唯が悪ノリした結果である。ただ蒼唯もしっかりと考えている。


「大丈夫です。確率なら『絶対幸運』とか色々あるですから、問題ないです」

【そんな凄まじいアイテムを消費して、隣にいるまっくよ様を箱に移動させるだけなのですね。はぁー、蒼唯様らしいですが】


 ため息を吐くリリスだが表情は明るい。

 『災厄の小箱』よりも使い物にならないようなアイテムに魔改造した蒼唯を見て、こんなぶっ飛んだ人が他にいる筈が無いとリリスは確信したのであった。

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