狂気の研究所編

第123話 救世主と災厄

 探索者たちの中でも上澄みである高位の探索者たちが一斉に転職し出した。これにより才能消失アビリティーロストで一時的に弱体化した高位探索者が続出し、ダンジョン攻略が停滞するという問題も発生した。

 しかし曲がりなりにも高位探索者と呼ばれる者たちである。転職により得た上位ジョブを短い期間で使いこなせるようになり、パワーアップして前線に復帰していった。


柊:「この調子で行けばもっと珍しい素材が入ってくると思うぜ?」


蒼唯:「そうです? まあ今のところは素材には困って無いですけど、それは嬉しいですね?」


 一方で蒼唯たちの方は、新たに得たジョブを使いこなしたいぬいが、これまでよりもハイペースでダンジョンに繰り出すため、蒼唯が消費し切れない程の素材が集まってきている。

 しかもぬいは、利益や難易度の関係上、探索者たちが避けるようなダンジョンでも、『神茸師』の規格外の応用力で攻略が可能なため、市場には出回らない類いの素材も採ってきてくれるのである。


柊:「なるほどな。だが今回の件でまたアオっちの注目度が増したからな。ぬいには、アオっちの傍にいて欲しい気もするぜ」


蒼唯:「注目です? まあ最近はまっくよが私にべったり傍にいるですよ? 学校にも付いてきますし」


柊:「そうなのか? 学校側は何も言わんのか?」


蒼唯:「最近のまっくよは、短い時間でも最高の眠りができる研究をしてるみたいです。先生や同級生から『昼休みの救世主』って呼ばれてるらしいですよ」


柊:「謎に活躍してるのな。まあそれなら安心か?」


 今までは敵以外だと蒼唯たちにしか眠りを提供していなかったまっくよだが、ジョブを得たことで短くても効率的な睡眠も提供できるようになったことで、それの練習を学校内で行うようになっていた。

 そのため昼休みに寝ても午後の授業が地獄な学生や、激務により睡眠不足な先生方から救世主扱いを受けているらしい。


蒼唯:「大丈夫です」


柊:「まあ気を付けるに越したことはないから気を付けてくれよ。また何か面白い物が手に入ったら送るぜ」


蒼唯:「よろしくお願いするです」


 蒼唯を狙う上で登下校は狙い目である。その時間帯にまっくよが傍にいるのであれば安全であると柊も思うのであった。


―――――――――――――――


 リリスは、蒼唯からの『魔力炉』などの提供により、自分がいなくても回るようになった『吉夢の国』のマスタールームで寛いでいた。

 すると『吉夢の国』でマスコット的な人気がある『夢の羊ドリームシープ』が入室してくる。


メェはこメェェきけん~」

【箱ですか? 少し待ちなさい…なるほど『災厄パンドラの小箱』を持ち込んだお客様ですか。此処に連れてきなさい。私が魅了おはなしするわ】

メェ~メェりょーかい

 

 モンスターが襲ってこない安全なダンジョンである『吉夢の国』だが、襲ってこないことを良いことに、従業員役のモンスターに危害を加えたり、ダンジョン内に設置されたアトラクション等を持っていこうとする者も一定数いる。

 しかしかつて高位探索者たちを壊滅に追い込んだ『悪夢の国』の名残は残っているどころか、蒼唯の助力で戦力事態は増強している『吉夢の国』に、そのような悪徳な行為をすれば地獄を見ることになる。


 そんな中、今回持ち込まれたアイテムは『災厄パンドラの小箱』である。これは開けると様々な災厄を周囲に撒き散らし、それが終わると撒き散らした災厄の大きさに見合ったアイテムが箱の中に現れるという、デメリット付きの宝箱である。

 小箱ということで撒き散らす災厄は小規模とは言え、高位探索者でも苦戦するようなモンスターを召喚したり、並みのアイテムじゃ太刀打ちできない病魔や呪いが蔓延する場合がある代物であり、そんなものが一般人も多くいる『吉夢の国』で開けられれば被害は相当なモノになるだろう。


【テロってことなのかしら? わざわざここで? 意図が分からないわね】


 リリスが元いた世界では、敵対者の縄張りで箱を解放し、アイテムだけが残った箱を後で回収するというテロが横行していた。

 この世界でもそういった手法を使う外道はいるため、持っていることに疑問はないが、態々此処に持ち込む意図が分からなかった。


メェェつれてメェきた~』

【ありがとう。じゃあ目的を効きましょうか】


 リリスは『夢の羊』が連れてきた者たちを『魅力眼』で魅了し質問を開始するのだった。



 

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