第122話 ぬいぐるみとジョブ

 蒼唯たちが『転職の神殿』を攻略し、この世界で一番というよりも唯一の転職の有識者である蒼唯が安全だと断言した。という情報が世界中に拡散された。それにともない『ブルーアルケミスト』で行っていた『無職救済サービス』も終了し、今後、他者への転職の依頼は受け付けないことが発表された。

 この結果、多くの探索者が『転職の神殿』に押し掛ける事態となった。近年、ダンジョン災害が増えてきており、発生するダンジョンの難度も上昇傾向にある。また階層型のダンジョンの攻略も進めていかなければならない関係上、強化できる機会は逃せないのだ。

 そんなこんなで探索者業界は『転職の神殿』に熱を上げている。


 一方の蒼唯は転職関連の依頼を全て『転職の神殿』に押し付けることができたので、ようやく一段落であった。

 

「最初は面倒だったですけど、色々収穫があったですね」

【そうですね。蒼唯様がアイテム創造以外が出来るようになられたことと、ぬい様やまっくよ様がジョブを授かり、強化されたことで更なるバグ――発展が期待できますね】

「ですね」


 今回のことがなければ、蒼唯がセルフ転職を試みることも、ぬいやまっくよが『無職』を授かり、それによりジョブを得ることも無かっただろう。

 ジョブという新しい力を手に入れたぬいとまっくよは、楽しそうにじゃれあっている。


「ぬいぬい!」

「まく~」


 ぬいが得たジョブは『神茸喰犬のこフェンリル』。読んで字の如く、神に茸を生やして喰う犬という意味を持つジョブであり、ぬいがサタン茸を生やして最後は美味しくいただいた場面が蒼唯の創造力を書き立てこのようなジョブへと至ったのだ。

 このジョブの影響でぬいが持つスキル『茸師』が『神茸師』に強化され、更なる繁殖力と適応力を使役する茸たちに持たせることが出来るようになった。

 一方、まっくよが得たジョブは『黒夜寝子くろねこ』である。

 蒼唯がまっくよをイメージしながら、『無職』から抽出したジョブの元を弄っていたら割りとあっさり完成したジョブである。

 まっくよ最大の特徴である睡眠関係に特化したジョブであり、睡眠誘導系のスキルが幾つか生え、より良質な睡眠を他者に提供できる存在になった。

 

【ぬい様もまっくよ様も、もともとジョブ無しでさえダンジョンブレイクを起こされていましたのに、それぞれの得意分野が更に強化されてしまったら、もう止められなくなりそうですね…】


 ぬいとまっくよのスキルは、ダンジョンブレイクを引き起こすことに適しているが、その適しているスキルが今回のジョブ習得により強化されてしまったので、味方であるリリスも冷や汗が止まらない。


「まあ、そんなときはリリスが『縫包もふもふ化』で…眠らされて生やされて終わりですね」

【デフォルメされた挙げ句、そんな終わり方ですか…まあ何とかなる未来は見えませんが】


 リリスも蒼唯の手によって強化を受けたが、それでも眠らない身体を無視して眠らせてくるまっくよと、気が付けば茸だらけにしてくるぬいが相手では分が悪すぎる。


「まあドンマイです。ってそろそろ『着せ替え部屋』の耐久が持たんですね。ぬい、まっくよ! そろそろ終わりです!」

「ぬいー」

「まく~」

「そろそろ『着せ替え部屋』の耐久性能も高めた方が良いです? まったく、ぬいたちは直ぐに成長するですから」


 じゃれあいが冗談では済まないレベルになってきた頃合いで蒼唯が止めには入る。


【…もし蒼唯様が本気で探索者業に打ち込んだらダンジョンがこの世から無くなるのも時間の問題だと妄想したことがありますが、この光景を見ていると現実だと思い知らされますね】

「何のことです?」


 そんなダンジョンの天敵とも言うべき存在を従える蒼唯が、探索者業に興味がないのは全ダンジョンマスターたちが、泣いて感謝すべき事態だと思うリリスであった。




 


☆☆☆☆☆

ぬいとまっくよのジョブ名が思い付かず撃沈…

ネーミングセンスが欲しい切実に

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る