第117話 ぬいぐるみ交渉

 リリスが元々持つ変身能力は魔力により見た目を変化させるが、今回得た『縫包もふもふ化』は性質が少し異なる。

 分類的には『獣人』の『獣化』や『龍人ドラゴニュート』の『龍化』に近い。身体の構造から変化するこのスキルは、蒼唯が持つ上位の鑑定系スキル『真理の眼』で見ても、リリスは紛うことなき『ぬいぐるみ』であった。

 

 リリスはこれから、蒼唯が造り出した『ぬいぐるみ』として表舞台に出ることになる。それについて色々と言いたいことは多いが、『縫包もふもふ化』の利点も理解できるため、最終的には納得するのであった。


【確かに『人化』を得て、人間として表舞台に立てば、蒼唯様の味方である柊様などにも怪しまれる危険性がありますからね】

「探索者とそこまで関わりがない私がいきなり、協会と交渉ができるくらいダンジョンに詳しい人を連れてきたら皆ビックリするです」


 リリスが人として登場すれば、リリスのことを調べ上げようとする輩は出てくるだろう。蒼唯と敵対関係にある者は勿論のこと、蒼唯の事を気にかけている者も。そこで一切の情報が出てこなければリリスが人ではないのではないか、と考えるものも出てくるかもしれない。

 しかし『ぬいぐるみ』として登場すれば、リリスについて調べようとする者もいない。ぬいやまっくよの時と同じ様に、皆『蒼の錬金術師』がまたおかしなモノを造り出したと受け入れるだろう。


「それじゃあ、国際探索者協会との交渉役は頼んだです」

【お任せください。この鬱憤は彼らで晴らされて貰いますので】

「よろしくてす。ぬいたちも『ぬいぐるみ』の先輩としてリリスのフォロー頼むです」

「ぬい!」

「まくまく!」


 こうしてリリスたちは、国際探索者協会の役員たちとの話し合いの場に向けて出発するのであった。


―――――――――――――――


 国際探索者協会と『蒼の錬金術師』の話し合い。たった1人の影響力が、探索者業界で圧倒的な影響力を誇っていた国際探索者協会を上回ったからこそ開かれた会議に、当然のごとく『蒼の錬金術師』は欠席した。

 更には『蒼の錬金術師』の代理として参加したのが、彼女が造り出した3体の『ぬいぐるみ』であり、そのうち2体は人の言葉を話せなかった。


「ぬいぬいー」

「まく~」

「あ、あのリリス氏、ぬい氏とまっくよ氏は何と?」

【ぬい様とまっくよ様はお腹が空かれたようです。少しお待ちください】

「そ、それは! 『幻想金属オリハルコン』!? まるで煎餅のようにバリバリと?」


 しかし文句を言える雰囲気でもない。明らかに相手から舐められていると感じても、ダンジョンを崩壊させた実績がある『ぬいぐるみ』2体に、人の言葉を話せる謎の『ぬいぐるみ』。下手なダンジョン内よりもこの場の方がよっぽど危険そうである


「まく!」

「ぬいぬい!」

【そうですか。それではそろそろお話を伺ってもよろしいでしょうか?】

「は、はい!」


 特にこれまで表舞台に出てこなかったリリスは、端から見ればぬいたちを操る黒幕的な存在にも見えるため、より一層恐怖を感じる役員たち。

 しかし、リリスというブレーキがいる状態がどれ程安全性を高めるか彼らは知るよしもない。


 この会議以降、リリスは蒼唯の代理人として様々な会議に出席するようになり、人々はこれを『ぬいぐるみ交渉』と呼ぶようになるのであった。

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