第116話 変身してもふもふ

 蒼唯は困惑していた。ジョブの実験に夢中になるあまり、国際探索者協会の事をすっかり忘れていたため、彼女からすればよく分からない協会からよく分からない謝罪が来た状況なのであった。


【国際探索者協会は蒼唯様に対してダンジョン攻略しろと要請してきた協会ですよ】

「あー、そこですか。それで何で謝罪してるです?」

【弱い者が強い者に頭を下げるのは自然の摂理ですので】

「よく分からんです。そもそも探索者の協会ですよね? 私って探索者なんです?」


 特に気にしたことが無かったためスルーしていたが、蒼唯自身、あまり探索者としての自覚は無い。


【分類上、ジョブを得た者=探索者と表記されますが、探索者協会が管理するのは、ダンジョン攻略や生産活動を仕事とする者ですね。端から見れば蒼唯様も探索者に該当するかと】

「なるほどです。じゃあ私は探索者じゃないですね」

【蒼唯様がそう仰るならその通りですね】


 蒼唯の感覚的に探索者活動も趣味の一環で行っているため、その定義からすれば蒼唯は探索者ではないだろう。そして他の人から探索者扱いを受けていたのにも納得が行く。まさか世界最高の『錬金術師』が趣味感覚でやっているとは誰も思わないからだ。


「相変わらずリリスは物知りで助かるです」

【…蒼唯様に人間社会の物事について尋ねられるのは、釈然としない部分はありますが】

「そうです? 気にしないで良いです」

【蒼唯様はもう少し気にしてください】


 『魅力眼』等を使い着実に下僕を増やしているリリスは、そこで築いた情報網により着実に人間社会に詳しくなってきていた。一方蒼唯は、リリスが現れて以降、疑問に思ったことはリリスに聞けばある程度答えが返ってくるため、人間社会に疎くなった気さえするのだった。


 そんな雑談を挟みつつ、話題は国際探索者協会からの謝罪に対してどうするかに移る。


「謝罪されてもどう対応すれば良いか分からんです。許せば良いです?」

【そうですね。蒼唯様が向こうに対してしたい要求は、指図するなってことですよね。折角、向こうの立場が地に落ちていることですし、交渉次第では傀儡…は蒼唯様が面倒がるでしょうから、都合の良い駒くらいには出来そうですね】

「リリスはそういう交渉は得意そうですし、リリスが表舞台に立てたら色々と楽なんですけど。ダンジョンマスターだから難しいですよね」


 いつも外部と蒼唯の仲介役を担ってくれる柊に不満は無いが、リリスの件など全ての事情を柊に明かしているわけでもない。更に言えば柊は探索者としての立場もあるため勝手気儘な蒼唯の代弁は難しい部分があるのだ。


【…『夢魔』の能力で外見を変えることも出来ますので、別人として行くのであれば】


 そう言いリリスは自身を少し幼くした状態に変身する。人を魅了するのに外見は重要な要素であるため、それらを変えるスキルも当然習得済みのリリス。しかし外見を変えるだけであり、本質的な部分は変化していないため、


「でも見る人が見ればモンスターかどうかは分かるですよね?」

【それは、そうですね】

「だとバレる可能性もあるですよね。変身、リリスがモンスターとバレないように……あ、良いこと思い付いたです!」


 少し考え込んだ蒼唯は嬉しそうな表情を浮かべる。その表情がとても不吉なものに思えたリリス。


【ご再考を!】

「まだ何も言ってないです。つまりモンスターだとバレても大丈夫な変身なら良いですよね?」

【そう、ですね】

「つまり、リリスが私の新しい『ぬいぐるみ』になれば万事解決です」

【『ぬいぐるみ』に…ご再考は?】

「何度考えてもこれが一番だと思うです。ほら、ぬいやまっくよも賛成みたいです」

「ぬいー」

「まく~」

【分かり…ました】

「じゃあ少し弄くるです。この機会に色々と最適化しとくです」


 ぬいとまっくよからの熱い視線を受け観念したリリスは、蒼唯の魔の手を受け入れるのであった。


 蒼唯の『錬金術』と『魂への干渉』のコンボにより、リリスが新しく身に付けたスキルは『縫包もふもふ化』。このスキルを発動すれば、『ぬいぐるみ』に変身する事が出来る。

 実験のためリリスがスキルを発動する。すると小学生くらいまで小さくなった、デフォルメ版リリスがそこにいた。

 

「よし、思い描いた通り可愛いです! 身長が縮んでいるですけど違和感は無いです?」

【気にするところ身長ですか? 身体がぬいぐるみになってる違和感で、身長が縮んでいる違和感は吹っ飛んでいます!】

「なら良かったです」

「ぬいー」

「まくまく!」

「ね、可愛いですよね」


 リリスのぬいぐるみ形態は、ぬいたちにも好評であった。しかし当の本人はまだ心が追い付いていない様子であった。


【何より悔しいのが、蒼唯様が造られたスキルのため、本来の私の身体よりも肉体的性能が高い点ですね】

「それは変身して弱くなったら意味ないですから」

【そうですか】


 こうして蒼唯の思い付きにより、最終形態が『ぬいぐるみ』の夢魔姫サキュバスプリンセスが爆誕するのであった。




 

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