第115話 無職救済サービス

 『ブルーアルケミスト』で新しく始まったサービスには、申し込み期間が異色だったこともあり、申し込みが殺到した。


【『転職』という人間社会的にグレーな技術を、国際探索者協会が地に落ちたこのタイミングで発表するのは良い考えでしたね】

「申し込み期間の欄は納得いかないですけど。まるで私が飽き性みたいじゃないです?」

【飽き性かどうかは分かりませんが、突然もう転職はやらないですと言い出しそうだと柊様は考えたのでは?】

「……まあ確かにそれは言うかもです」

【あの書き方なら突然打ち切っても、文句は…言われるかもしれませんが、一蹴できますから】


 リリスに諭され、そういった発言をしてしまう自覚のある蒼唯は納得するのだった。


 そうして始まった『無職』救済サービスだが、転職させるには蒼唯と探索者たちが対面する必要があるが、そうすると下手なトラブルを招きかねない。 

 そのため控え室でまっくよの『小常闇』を受けて貰い、ぐっすり眠っている間に蒼唯が転職を行うという、手術スタイルを採用し、極力蒼唯は探索者に会わないように心掛けた。


「柊さんが連れてきた3人いたじゃないです?」

【いましたね。『無職』になっても中々のオーラを纏った者たちでしたね。最後には蒼唯様に平伏して去っていきましたが】

「何かいちいち大袈裟で驚いたですよ。ギブアンドテイクでやってるだけなのにです。だからこのスタイルの方が良い感じです」

【それならば良かったですね】


 蒼唯的には探索者が要らない『無職』を無料で回収している感覚なため、泣く程喜ばれ感謝されても困るのだ。

 

「さてと、午後は探索者来ないですし、羊毛フェルトでもしながら、集まった『無職』の使い道でも考えるです」

【使い道ですか?】

「そうです。ジョブを装備品に付与して成長する武器とかも可能ですけど、それやるくらいなら成長面では効率が良い『食トレ』を付与した方が良いですし」

【確かにそうですね。…どう考えても『食トレ』の性能が壊れているように思えますが】

「なので今考えてるのは、ジョブの元をぬいたちの魂に最適化して、ぬいたちの良さを損なわないジョブが出来たら良いです。ジョブ『ぬい』とかジョブ『まっくよ』を造れたら最高です」

【そんな職業俺みたいなジョブ…蒼唯様なら出来そうで怖いですが。そんな事を羊毛フェルトの片手間で考えないで欲しいのですが?】

「なぜです?」


 ジョブという概念が崩壊しそうな事を片手間で考える蒼唯であった。


―――――――――――――――


 一方、崩壊寸前の国際探索者協会。建て直しのために色々と奔走していた所に、今回の『ブルーアルケミスト』の『無職』救済サービスの報せが届けられ、ダメ押しされた気分の役員たちである。


 世間からは間違いなく、蒼唯と国際探索者協会は敵対していると思われているだろう。普通の探索者ならば国際探索者協会に敵対していれば、誰も味方にならず孤立し、最終的には向こうから頭を下げてくるものであったが、今回は逆である。蒼唯の造り出すアイテムや『ブルーアルケミスト』のサービス等を受けられなくなるリスクを避けようと、表立って国際探索者協会の味方を表明する者がいなくなった。

 

「謝罪をしましょう。『蒼の錬金術師』に謝罪をし協力を仰ぎましょう。それしか道はありません!」

「一探索者に頭を下げれば協会の体面が…」

「そんなもの気にしている余裕など、まったくありませんよ!」


 そういった会議を経て、漸く国際探索者協会は蒼唯に対する『転職の神殿』への攻略要請の撤回及び、謝罪を発表する事になる。


 尚、当の本人は、国際探索者協会との一件をすっかり忘れており、柊から謝罪を受け入れるか問われた際、


「私はそのよく分からない協会さんから何の謝罪をされてるです?」


と聞き返してしまうのであった。


 


 

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