第111話 ミッションブレイク
思わぬ反撃により窮地に立たされている国際探索者協会。蒼唯は例外として『商会連合』という大きな組織のトップである柊の説得も失敗してしまい、選択肢が無くなっていく。
「此方の要請を一時的に撤回し、向こうとの妥協点を探るのが良いのでは無いですか?」
「今さらか? 個人の我が儘な意見によって此方の意見を撤回してしまえば、今後同様のケースが増えることは目に見えておる!」
「そうだ」
「ですが、マスコミや情報ギルドに依頼して『蒼の錬金術師』の情報を集めようにも一向に集まらない状況。このまま無策で進むのはあまりにも――」
かつて無い事態に動揺が隠せない役員たちの中で、一人だけ冷静さを保つ者がいた。頭脳明晰であり地国の探索者協会において優秀な成績を収め、国際探索者協会に引き抜かれた若きエリートである。
「でしたら、我々で『転職の神殿』を攻略すればよろしいのでは?」
「何を言っている。それが出来るのであれば、最初か日本のハイスクールの学生などに要請など出さない」
「確かに『神の手』を含め優秀な生産系ジョブ持ちの方々が失敗されました。正攻法なら難しいのでしょう」
「ならば!」
「正攻法では無い方法ならどうでしょうか」
「正攻法では無い?」
「はい。今流行りの『ダンジョンブレイク』とやらを参考にしてみるのも一興でしょう。言うならば『ミッションブレイク』」
若手役員の考えた方法はシンプルであった。
「つまり、戦闘系ジョブの試練は比較的簡単に突破できたのです。生産系ジョブの試練もそれに倣って見るのはどうかと愚考した次第です」
「生産系ジョブの試練で現れたコピーを戦闘で倒すか。確かに裏技的な攻略法ではあるが…」
「面白い発想ではあるな。しかしそれで本当にミッションクリアの扱いになるのか疑問だな」
「ですがこれで解決できるのであれば、今寄せられている批判をはねのける好機ですぞ」
目撃者の証言やその後の検証結果等により、蒼唯の『ぬいぐるみ』たちがミッションをクリアせずにダンジョンを攻略した事は明白であった。つまり、ミッションには多くの解法が存在するのであり、物造り勝負の相手にバトルを仕掛けるのも許容される者だと若手役員は考えたのだった。
「戦闘系のスキルを持っている生産系ジョブ等は既に揃えております。『転職の神殿』のミッションの1つをクリアしたパーティーの指導も受けさせ、突破する作も考案済みとなります」
「そうか。クリア扱いにならずともリスクは無かろう。ならばやってみるとするか」
「ありがとうございます!」
成功すれば国際探索者協会は窮地を免れれるし、失敗しても若手の有望株である者の評価が落ちるだけであるため、最終的にはこの案が可決されることとなる。
しかし彼らは知らなかった。ぬいやまっくよたちが起こせる『ダンジョンブレイク』と自分たちが起こそうとする『ミッションブレイク』の差異について。
―――――――――――――――
国際探索者協会が主導して、『転職の神殿』の攻略を実施することを発表した。しかし『神の手』や大手ギルドのお抱えである有名生産者たちの名前が無く、世間の反応は冷ややかなモノであった。
しかしリリスの『魅力眼』の餌食となった
「それはクリア扱いになるです? 私はあまり詳しくないですから分からんですが」
【ダンジョンマスターの裁量しだいな面はありますが、製造したモノでの勝負だと明記されていますし難しいのではと思います】
「じゃあ失敗するです?」
【その可能性が高いですね。テーマダンジョンをミッションを無視してクリアしたいならば、ダンジョンマスターを引きずり出す必要がありますが、彼らは私たちの存在を知りませんからね】
「なるほどです」
蒼唯が納得したためこの話はここで終わりとなったが、リリスは敢えて蒼唯には言っていないことがある。リリスは比較的寛容だが、ダンジョンマスターの中には頑固な者も多い。そういった者はミッションというルールを守らない者を嫌うだろう。
誰が『転職の神殿』のダンジョンマスターか知らない。しかしリリスが思うに、神殿を管理する神官たちはそういった類いの者で占められていた記憶がある。
【…神の試練の冒涜だーとかでペナルティが発生しなければよいですが】
「何か言ったです?」
【いえ何も】
この事を優しい蒼唯に言えば、何とか止めようとしてしまうかもしれない。怪しい立場にいる蒼唯であるが、そんなことは関係なしに行動してしまうだろう。そのためリリスは黙っている。これによって打撃を受けるのは蒼唯の手を煩わせている者たちだけなのだから。
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