第110話 蒼の手

 元々、蒼唯を付け狙う記者は多かったが、『ブルーアルケミスト』に声明を出して以降、その数は明らかに増えていた。

 しかも前までと記者の性質は変わっており、どちらかと言えば、蒼唯の情報を収集しあわよくば弱みを握ろうとする者が多くなっていた。


【今日も中々の人数でしたね。皆、満足メロメロして帰ってくれましたから楽でしたが】

「お疲れです」

【まっくよ様の猫胞子を何人かに着けておきましたので、何かあれば対応できますよ】

「まく~」

「まっくよもありがとうです」


 しかしそういった者への対策はバッチリである。蒼唯は具体的に何をしているか聞かされていないが、まっくよやリリスの満足そうな顔から不備は無いだろう。


【ところで、蒼唯様は先程から何を造っておられるのですか? 手の模型? 蒼唯様にしては可愛らしく無い気がしますが】

「これです? これは私の手です。『幻想金属オリハルコン』の『変幻自在』で構造を似せたので、私がしたのは成形したくらいですけど」

【蒼唯様の手? な、何故そのようなモノをお造りに?】


 何となく嫌な予感をしたリリスが恐る恐る理由を尋ねる。そんなリリスと対照的に蒼唯は何でもないように答えた。


「まえーに私の『錬金術』の技術を持った人がいっぱい居れば良いなって思ったことがあって、色々と考えてた時期があるですよ」

【そ、そーなんですか】

「その中で一番良い感じだったのが『模倣の手コピーハンド』です。手袋型のゴーレムで、装着した者の動きをサポートするアイテムですね」

【そんなモノを開発してたのですか。見た記憶は無いですが】

「良い感じって言っても失敗作ですからね」

【失敗ですか】


 蒼唯が失敗する事もあるのかとリリスは興味深くなる。


「そうです。私は『模倣の手』を着けたら皆、私と同じくらい『錬金術』が出来るようにしたかったです。でもそんな応用が利くのは出来なかったです」

【そんなアイテムが造られていたら今頃大変ですからね】

「精々、私と同程度のポーションが造れるようになるくらいの性能しか無かったですから、ガッカリして造るの止めてたです」

【十分な性能では?】


 おそらく蒼唯のポーション作成の腕は、国内最高峰のポーション職人より上である。『模倣の手』を装着するだけでそのレベルの腕が手に入るのは破格の性能である。蒼唯がそれでは満足できなかっただけである。


「ポーションはかなり単純な作業が多いですからね。それくらいしか模倣出来なかったですよ。多分魂の性能的にそこが限界だったんだと思うです。だから今回『魂への干渉』も使って色々アップデートして、転職をこの『手』で出来るようにしたかったんですけど…」


 転職はかなり繊細な作業であり、蒼唯自身が行わなければ危険なため、転職用のアイテムを造るのは無理だと考えた。

 と同時に蒼唯が増えるようなアイテムであれば良いのではないかと考え、過去に開発した失敗作『模倣の手』から着想を得て今回、装着するのではなく『ぬいぐるみ』等と同様に完全自立型の『模倣の手』通称『蒼の手』の開発をしてみることにしたのだ。

 

 『模倣の手』を造った頃より蒼唯も成長している。しかも素材も『幻想金属』というかなり良いモノを使えているため、造れると蒼唯は思っていた。しかし


【ですけど? あ、『幻想金属』がぼろぼろと】

「何か『幻想金属』が付与に耐えられずに崩壊しちゃうです。おかしいですね。私の『錬金術』と私の『錬金術』の技能くらいしか付与してねーですから、経験的にはかなり余裕がある筈なんですけど」


 スキルを詰め込みすぎた際に起こる現象が、蒼唯が十分余裕があると思っていたのに起こってしまったのだ。

 蒼唯には原因が分からなかった。


【なるほど。それは『幻想金属』と言えど無理ですよ】

「リリスは失敗の原因が分かったです?」

【『幻想金属』がいくら伝説と言えど、神を宿すには荷が重いでしょう】

「うん? 意味が分からんですが?」

【分からない方が良いこともあります。取り敢えず『蒼の手』は止めておきましょう。『幻想金属』も勿体ないですよ。ですよねまっくよ様】

「まく~!」

「むむ、確かにそれもそうですね。ごめんですまっくよ」

「まく~」


 何となく思い付きで始まった『蒼の手』計画は、リリスの機転とまっくよの食欲により頓挫することになるのであった。

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