第109話 知らなすぎる
『ブルーアルケミスト』にて発表された蒼唯の声明文は、探索者業界全体を揺るがす大事件へと発展した。
国際探索者協会からの指名依頼を断る探索者は過去にもいたが、喧嘩を売る探索者はいなかった。しかも蒼唯以外がやったら相手にもされないような喧嘩の売り方であった。実際、『ブルーアルケミスト』で声明を発表した際、国際探索者協会の役員の中には、この声明を小馬鹿にする者もいた。
しかし『ブルーアルケミスト』を通じ、世界中に蒼唯の凄さを発信し続けてきた成果により、皆が蒼唯のアイテムが使えなくなることの重大さを分かっており、国際探索者協会を非難する者が爆増する結果となった。
思わぬ事態に焦った国際探索者協会は声明の撤回を求め、『ブルーアルケミスト』の運営である『商会連合』の長、来馬柊を呼び出した。
「声明文を取り下げ『蒼の錬金術師』に『転職の神殿』を攻略するように説得しろとの事です」
「それは指名依頼か何かですか?」
「そう捉えて頂いて構いません。取り急ぎ此方が用意した文章を『ブルーアルケミスト』にて―――」
「お断りだぜ。当然な」
「まだ幼い『蒼の錬金術師』なら兎も角、『豪商』と名高い貴方までそんな浅慮な判断をするのですか?」
協会からの依頼を突っぱねた柊に呆れた様子の協会員。そんな反応をされることは織り込み済みで依頼を一蹴した柊。
「あんたたちからすれば俺っちたちは、意地を張って簡単な依頼を断って騒動を大きくする馬鹿に見えるかもしれん。でも俺っちからすれば、あんたらは、アオっちを知らなすぎる」
「どういことでしょうか?」
「あんたらからは想像出来ないかも知れないが、アオっちにとって『錬金術』やら探索者ってのは本当に取るに足らない事だ。趣味を謳歌するために出来るようになると嬉しい事柄の1つ程度の感覚なんだぜ」
「ま、まさか…」
「世界最高の『錬金術師』なんて称号も蒼唯にとっては興味ないんだぜ。でも、最近少しずつ『錬金術師』やらダンジョンやらへの興味も増えてきてる。4年半の時間で本当に少しずつだがな。今回の依頼はその時間を無にするかもしれないほど大きな依頼なんだよ」
これまで蒼唯にとって『錬金術』とは趣味のハンドメイドを行う上での技術の1つというだけであり、他にある技術の中でもそこまで優先度が高いものではなかった。
しかし4年半程の時間『錬金術師』としても活動してきた結果、その優先度は上昇している。更にここ最近は全く興味の無かったダンジョンについても興味を示すようになってきた。これからの対応によって蒼唯がこれからも『錬金術師』として活動するかどうかが掛かっているのだ。
「今回の声明についても、昔の蒼唯だったら『強制でダンジョン行かされるならもう『錬金術師』は止めるです』なんて言われても不思議じゃなかったんだぜ?」
「そんなことになったら!」
「今回の炎上どころの騒ぎじゃ無いだろ?」
それを恐れていたからこそ、柊たちは蒼唯を表舞台に立たせないように情報統制をしていたのだ。
「しかし、これからの探索者業界にとって『転職の神殿』が持つ意味は途轍もなく多くのモノであると考えている」
「それには同感だぜ。まあ懸念点が無い訳じゃ無いがな」
「だったら」
「だからあんたらはアオっちを知らなすぎるって言ってるんだ。縛り付けたらアオっちの良さが死ぬ。自由にやれればやれるほど、最良の結果を叩き出すのがアオっちだぜ? 要請を撤回するよう説得するのを勧めるぜ。まあプライドが高いそちらのお偉いさん方を説得するのは厳しいだろうがな」
国際探索者協会と蒼唯を天秤に掛ける間もなく、蒼唯を取った柊であったが、それでもこれまでの探索者業界を、支えてきた国際探索者協会がただ落ちていくのを見るほど薄情でもない。
拗れてしまった今騒動を収めるには、どちらか若しくは両方が折れるしかない。どちらも折れなかった場合、損害を被るのは国際探索者協会であり、蒼唯は絶対に折れないとだろうなと考える柊であった。
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