第99話 進路と転職

 夏休みが終わり、2学期が始まる。高校1年生であるため蒼唯はまだまだ気楽なものだが、意識の高い者はこの頃から進路を考えている。

 蒼唯が通っている高校は、探索者関連の授業が選択できたり、プロの探索者が講師として教えに来たりと探索者活動への支援が豊富である。そのため生徒も探索者業界に興味がある者が多く、高校卒業を機にギルドに所属する者も一定数いる。勿論大学に通いつつ探索者として活動するものもいるが


「蒼唯は進路調査は何て書いたの?」

「実家から通えそうな距離にある大学を何個か書いたですよ。半分適当ですけど」

「ギルドに所属とかはしないの?」

「無いですね。取り敢えずは大学は行くつもりです。輝夜はそのまま『流星』です?」

「まあそうだね」

 

 高校在学中でありながら、現在日本のトップギルドの一角である『流星』に所属している輝夜。そして伝説の『錬金術師』と呼ばれ、自身の作品を販売するサイト『ブルーアルケミスト』も大盛況な蒼唯。

 この2人の会話に耳を傾けるクラスメート。特に蒼唯の動向は探索者志望の者たちにとって死活問題になりかねない。


 『流星』など蒼唯と多く関われるギルドに所属できれば今後も安泰であろう。下手なギルドを選んで、日本だけでなく世界的に影響力を持つ蒼唯と敵対する羽目になったら笑えない。


「本格的にハンドメイド職人として活動するのもアリですね。趣味を仕事にみたいなのも聞きますし」

「それ聞いたら星蘭さんとか喜ぶと思う。あの人たち蒼唯がこの業界から離れるんじゃないかって心配してたし」

「決めるのは大学卒業する前ですからまだまだ先です」


 クラスメートたちは、蒼唯たちの会話に一喜一憂するのであった。


―――――――――――――――


「それにしても本当に蒼唯って変わったよね。前なんてダンジョン関連の話をすると完全に聞き流してたのに」

「まあ確かにそうですね。ダンジョンが身近に感じてる気がするです」

「ぬいぬい!」

「まく~」

「あ、こら、あんまり目立っちゃダメですよ」

「...確かにこの子たちいるのに、ダンジョンに無関心は駄目だよね」

「まあねです」


 その他にもダンジョンマスターを配下にしたり、ダンジョンを造ったりしている内に少しずつ興味が出てきたのだ。


「じゃあそんな変わった蒼唯に提案があるんだけどさ、ダンジョン攻略してみない?」

「嫌です。断るです」

「即決...。まあそうだと思ったけどさ」


 ダンジョンには興味が出てきたと言えど、攻略をする等本格的な探索者にジョブチェンジする気は無い。それは輝夜も分かっているようである。


「ぬい!」

「そうですね。うちの攻略担当が名乗りを上げてるですよ」

「それは嬉しいけど、今回蒼唯を誘ってるのは...ちょっと訳あり何だよね」

「訳ありです?」

「そのダンジョンは幾つかの試練を突破していく感じのテーマダンジョンなんだけど、試練の1つが生産系ジョブ限定の試練なの」


 ダンジョンにはジョブ等で入場制限を掛けるモノもある。そのため稀ではあるが、テーマダンジョンのミッション自体に制限が掛かるモノも存在はする。


「へー、なら『流星』の生産系ジョブを連れてくんですね」

「一応、その予定何だけどね。無理そうなんだ」

「無理です?」

「そう。このダンジョンが発見されてそれこそ各国の『神の手ゴッドハンド』と呼ばれるような名だたる生産系ジョブの人たちが挑んでるけど、一向にクリア出来ていないからね」

「あんまり『神の手』とやらに詳しく無いですけど、そんな人たちが何で態々、ダンジョン攻略なんてしてるです?」


 蒼唯が知っている『神の手』は『錬金工房』の筆頭『錬金術師』である丹波はじめくらいだが、あのレベルの人たちが1つのダンジョンに固執する様子はあまり想像できない。


「そのダンジョンにはそれだけの理由があるんだよ。これ見てよ」

「写真ですか? 石碑....です?」


 輝夜が見せてきた写真には石碑が写っていた。その石碑には文章が刻まれていた。


【ここは『転職の神殿』。全ての試練を突破した暁には、自身が望む『職』を獲得できる『転職の間』が解放される。更に優れた者はより上位の『職』を獲られるであろう】

 

「これで理解できたでしょ」

「なるほど、分からんです」

「何で?」


 蒼唯が理解できたのは、石碑に何かそれっぽい文章が刻まれているということだけであった。

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