転職の神殿編

第98話 夏休みも終わり

 長いようで短い夏休みも終了し、今日から新学期を向かえる蒼唯。

 ぬいが『エデンの園』を茸まみれにし、まっくよが『迷いの館』の食い荒らし、『機巧人形の採掘場』に睡眠革命の引き起こした等、2匹は思う存分遊んでいた印象だった。しかし蒼唯的にはもう少し趣味活に精を出したかったため、少し不完全燃焼な夏休みであった。


「うーんです。結構忙しかったですから、色々な作品を造ろうって目標はあんまり達成できなかったですね」

【いやいやいや、簡易とはいえダンジョンを2つも生み出した蒼唯様が何を仰いますか】

「あれは趣味活とはちょっと違うですからね。まあ最後にぬいとまっくよの像を造れたですから良しとするです」

【そうしてください】


 不満があっても、終わりは終わりである。学生の身分である蒼唯は学校に行かなくてはいけない。

 ただ蒼唯の正体が世間に公表されて以降、それなりに楽しい学校生活を送っているため、前ほど退屈でもない。

 逆にぬいたちは心配しすぎていた。


「ぬいぬい?」

【そうですね。私に出来ることと言えば、家の周りの者たちに『魅力眼チャーム』で社会的死を与えることくらいですか?】

「まく~」


 蒼唯から話を聞こうとする記者や、自分たちのギルド等に勧誘しようとするスカウトなど、蒼唯の後を付け狙う輩は夏休み前よりも確実に増えている。

 その理由の多くは、夏休みにぬいたちが活躍しすぎた結果である。そのため少し過敏になっているのだろう。


「やり過ぎです。『変装メガネ』もあるですし、何かあれば、まっくよを生やせば良いだけですから大丈夫です」

「ぬいぬい!」

「まく~」

「リリスもです。家の付近で変質者続出されたら迷惑です」

【分かりました蒼唯様】


 その後、結局心配しすぎたぬいとまっくよが2匹とも学校に着いてきてしまい、新学期初日からペット2匹から授業参観される羽目になるのであった。


―――――――――――――――


 蒼唯を付け狙う記者やスカウトは、柊率いる『商会連合』が防波堤となっている。しかし『商会連合』が大きな組織と言えどそれで完全にブロックしきれる程、甘くはない。

 更に夏休み明けという絶好のタイミングのためいつもより多く集まったのだった。しかし優秀な記者やスカウトと言えど『変装メガネ』を見破ることは出来なかった。


「くそっ! さっき知り合いからもう登校終えたって連絡があった。いつ家を出やがったんだ?」

「まあ天下の『蒼の錬金術師』様だ。俺らの想像なんて遥かに上回るアイテムでも使ったんだろ」

「...しょうがない。下校のタイミングを狙うか?」

「それより学校に掛け合って呼び出させる方が手っ取り早くないか? 俺らのギルドへのインターン枠を増やすとか提案すれば学校も嫌とは言わないんじゃないか?」

「....そうするか?」


 そんな会話をしていると1人の美女が近づいてくる。


【あらあら。面白そうな話をしてるわね】

「あ? 何だ姉ちゃん?」

【『私の眼を見なさい』。貴方たちはこれから自分の巣穴に戻り次第、蒼唯様の回りを彷徨く害虫の駆除に全力を注ぎなさい】

「『分かりました...リリス様』」

「『仰せのままに』」

【じゃあ行きなさい】


 リリスの『魅力眼』に魅了されたスカウトたちは、蒼唯に迷惑を掛ける輩を撲滅するため活動することとなる。

 感覚が麻痺しているが、リリスは『夢魔姫』であり本来、人を下僕とする側のモンスターであるのだ。

 

【さてと、近くにいる者たちはこれで全部か。さとて、蒼唯様方がお帰りになられる前に家事を済ませておかなければ】


 しかし蒼唯たちと一緒にいるリリスを見ていると、そんなことは忘れてしまうのだった。


 

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