第97話 猫は液体

 柊が代表を務める複数の商業系ギルドが集まった『商会連合』の元には、毎日多くの素材やドロップ品が売買される。そんな中、ダンジョン内でイレギュラーが発生したことで難易度とともに獲得できる鉱石の質も大幅に上昇した『機巧人形の採掘場』で獲られる鉱石等の買い取りが増えてきていた。

 ボスモンスターのレアドロップである『幻想金属』も多くのギルドが『機巧人形の採掘場』に注目している現状であれば、オークション等で目にする機会も増えるだろう。それを見越して蒼唯に加工方法の調査を依頼した柊には先見の明があると言える。


「...で、『蒼の錬金術師』が解明した加工方法は実用化できそうなのか?」

「生産職はそこまで多くの魔力を保有してませんので、『蒼の錬金術師』が想定しているよりも多くの人員が必要だと思われますが、『商会連合』のマンパワーを使う前提で、ある程度は見通しが立っています。ですが...」

「言わなくていいぜ」

「言わせてください。先日『蒼の錬金術師』から送られてきた、彼女のペットたちをモチーフにした『幻想金属』製の像、『新しい爪を見せびらかすぬい』と『まっくよは液体』。これらのような複雑な加工を施すことは現時点の我々には不可能です」

「分かってるぜ。というか彼処まで自由自在なことに驚かされたからな」


 蒼唯から『変幻自在』については聞いていたが、それでも金属であるという固定観念を持っていた柊は、色や形、触り心地まで本物そっくりのぬいの像を見てまず驚いた。

 そして液状という像という概念すらぶち壊しそうなモノを見て最早、言葉すら出てこなかったのである。


「...この加工を『蒼の錬金術師』1人で行っているという事実が何より恐ろしい。我々は『変幻自在』で『鍛冶師』が加工できる限界の硬度に調整するだけでヘトヘトなのに、1人で『変幻自在』を使いこなし加工まで行うなど...」

「それができるから伝説何だろうな...まあ『蒼の錬金術師』と自分を比較するなよ。身が持たないぜ」

「はい。それにしても『蒼の錬金術師』がこういった形で実力を示してくるとは驚きました」

「はは、そうだな」


 『商会連合』という日本でも有数の規模を持つ団体でトップクラスの『錬金術師』でも、蒼唯の作品を見ただけで心を折られている。彼はこの作品が送られてきた経緯を勘違いしていたが、これが『商会連合』に送られてきた経緯を知っている柊はこの勘違いを指摘する気にはならない。

 

柊:「あの像はなんだぜ?」


蒼唯:「『幻想金属』はコツを掴めば『錬金術』でかなり細かい造形ができるですよ。それで最近印象に残ったぬいたちのシーンを造ったです」


柊:「何でここに送ってきたんだ?」


蒼唯:「まっくよたちが像を見る目が完全にお菓子なんです。でもまっくよたちがモチーフの像を2匹が食べるのは嫌なので避難措置として送ったです。前に貰った『幻想金属』のお礼も兼ねてるです」


柊:「そ、そうか」


 実力主義の探索者業界とは言え、そんな避難措置の結果心をへし折られたのだとは流石に不憫すぎて伝えられないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る