第96話 飲む『幻想金属』

 『幻想金属オリハルコン』は保有する『変幻自在』によりその性質を如何様にも変化できるため、液体にも気体にも変化させることは可能である。しかし『幻想金属』をここまで変化させるには、本来莫大な量の魔力が必要であり、そこまでして液体にしたところで、液体では『幻想金属』の真価は発揮できないため、この中で一番『幻想金属』に詳しいリリスでさえ液体状の『幻想金属』など見たことは無かった。


 そんな珍しい状態の『幻想金属』が水入り皿に注ぎこまれる様子や、その皿に入った液体状『幻想金属』をペロペロと飲むぬいなど普通考えられない光景であった。


「ぬいぬー!」

「『幻想金属』を料理してとか訳分からんこと言われたですけど、液体にするだけで満足するとはまだまだですね」

【といいつつ幾つかの『魔法水』をブレンドして調整しているではありせんか】

「私は師匠の弟子ですからね。材料が『幻想金属』とはいえ、料理には手を抜けないです。まあ『魔法水』とかブレンドしたところで、美味しいかどうかの味見が私にはできねーですけどね」

【....できたら困りますが】


 そんな話をしている間にぬいは、水入り皿の中の『幻想金属』を飲み干す。

 ぬいが『幻想金属』を飲んでいる間、バリバリと『幻想金属』を貪るまっくよの事を考えていた。その思考は願いとなり『食トレ』が応じる。


「ぬ、ぬいっ!」

【歯と爪が『幻想金属』に変化しましたね】

「おお? 歯と爪だけですか。まっくよが獲得した『変幻自在』に比べて地味めです?」

「ぬい? ぬいぃー」

「言い方が悪かったです。そんなシャキーンって見せつけて来なくてカッコいいですよ。まあ、ぬいが満足したなら大丈夫です」

「ぬいぬい!」

【サポート向きまっくよ様と違い、直接戦闘するぬい様ならば、『変幻自在』でころころ身体の性質を変えるよりも戦いやすいかもしれませんね】


 所有者の願いに準じて発動する『食トレ』であり、『幻想金属』のように硬度が高い物体でも難なく食べたいという願いが反映されたのだ。

 あとは、蒼唯に作って貰った『ぬいぐるみ』の身体を気に入っているというのも大いに関係あるだろう。 

 『変幻自在』を覚え、食べたことのあるモノの性質にならば変化できるまっくよも、最終的には『ぬいぐるみ』の身体に戻る辺りこの身体は2人にとって特別なのだろう。あとは、


「ぬ、ぬい!」

「まあ身体全部が『幻想金属』だと色々、不便そうではあるです。爪を立てたぬいが、床切り裂いてるですよ」

【まあ、『幻想金属』の爪ですからね】

「ぬーぃ」

「気にするなですぬい。最悪『着せ替え部屋』なら修復も楽ですから、ここで爪と歯の使い方を練習しとけです。まっくよも『幻想金属』の先輩として教えてあげてです」

「ぬい!」

「まくまく~」


 ぬいたちにとって結局、ダンジョン攻略よりも蒼唯との生活が最重要であるということも理由の1つなのであった。


―――――――――――――――


 まっくよたちが去った後の『機巧人形オートマタの採掘場』。まっくよが引き起こした睡眠革命の波により、ダンジョン内の『機巧人形』たちの性能は格段に上昇した。

 

【シンニュウシャ! ゲキタイシマス!】

「お、おい! ここの階層の『機巧人形』たちってこんなに手強かったか? それに前より何かの気持ちが乗ってる気がする?」

「これがイレギュラー発生後の変化ってやつだろ! 見ろよ、この『機巧人形』が採掘したであろう鉱石を。『魔法銀ミスリル』が混じってやがるぜ」

「この階層で? これは良い!」


 その結果、鉱夫役の『機巧人形』たちの採掘効率も上昇し、入手できる鉱石等の量、質が向上したのである。

 ただ難易度が上昇したことにより、これまで下級の探索者の狩場であった場所もそれなりの探索者たちで無ければ攻略が難しくなった。


【スイミンボウガイ、ゲキタイシマス!】

「睡眠妨害? 何かの隠語か?」

「分からん! やっぱり前よりこっちへのヘイトが高い気がするぞ!」

「だよな。前なら少し離れれば採掘に戻ってたのに、追いかけてきやがる!」


 そしてこれまで仕事である採掘にだけ集中していた『機巧人形』たちだが、睡眠や休息の大切さを思い知った彼らにとって探索者はそれらを妨害してくる邪魔者である。そのため前よりも探索者へのヘイトが高く、好戦的なダンジョンへと変貌を遂げるのであった。


 


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