第93話 安寝茸

 まっくよの熱意に押される形でぬいも仕事中毒者全眠化に荷担することになった。


まくねろ~」

ぬいはえろー」


 ただ今回はダンジョン攻略のために『小常闇』を使っている訳ではなく、『眠り』の良さについて知らしめるために『小常闇』を使用するのだ。そのため眠らせたらその場に放置が基本なのだが、今回はぬいの協力で睡眠環境も整える。

 『安寝茸あんしんだけ』というぬいオリジナルで産み出した茸。傘の部分を寝るもの一人一人の睡眠に適した形に調整可能であり、その柔らかさは高級マットレスよりもふかふかである。尚且つ寝ている者の寝相などに合わせて傘や柄で角度を調整できるベッドとして最適化された茸である。


まくまくつぎいこ

ぬっいまってー」


 この『安寝茸』もまっくよの『眠り』への拘りから様々な指摘を受け試行錯誤の末、産み出されたモノであるがこの茸はこれまで大した活躍を見せてこなかった。この茸の不憫ポイントの1つは、元々身体がふわふわな『ぬいぐるみ』のぬいたちは、別にベッドで寝ようが床で寝ようがそこまで大差ないということであり、もう1つは茸であるため庭にしか生やせず、蒼唯も昼寝なら兎も角、夜に外で寝ようとは思わなかったため、これまで偶に蒼唯のお昼寝用のベッドとして使われていたくらいである。

 しかし今回はまっくよの『眠り』の拘りにより漸く陽の目を見るのだった。まっくよの拘りにより産まれ拘りにより活躍する。かなりマッチポンプ染みている気もするが。


【シンニュウシャ、シンニュウシャ!】

ぬいぬいいたよ!」

まくまくいたねまくねろ~」

【シンニュゥ....シャ】


 こうして『機巧人形の採掘場』の各地を回り鉱夫役の『機巧人形』たちを眠らせていくまっくよと、『機巧人形』たち用のベッドを生やしてくぬい。

 幸いなことに、この現場事態を他の探索者たちに見つかることは無かった。けれどまっくよたちの犯行跡については各地で目撃情報が上がることとなるのであった。


―――――――――――――――


 探索者、特に近接武器を使う探索者たちにとって、この『機巧人形の採掘場』はまさに宝の山であった。自分でピッケル等を持参して採掘する者がいるくらいである。

 しかし大抵の探索者は鉱夫役の『機巧人形』を探す。『機巧人形』自体は大したドロップもしないし、素材も採れない類いのモンスターであるので、討伐に旨みは無いが、その代わりに彼らが採掘した鉱石などを手に入れることが出来る。『貯蔵庫』のような施設もあるが、そこは厳重な警備役が闊歩しており難易度が跳ね上がる。そのため探索者は採掘中の『機巧人形』を狙うことが多い。


 今日もそういった探索者たちが探索に来ていたのだが、いつもと明らかに違う光景が目の前に広がっていた。


「これは...イレギュラーの予兆かなんかか?」

「そうだったらかなり激変する気がするな。これまでいつ来ても採掘に勤しんでた機械どもが茸? の上でぐーすか寝てやがるからな...」


 ダンジョンが変化したり、良くないことが起きる場合、その前段階として何らかの予兆も発生すると言われている。しかし予兆と言うにはあまりにあからさますぎるであろう。


「罠か?」

「どちらにせよ後ろに鉱石が放置されてる状況で寝てるとか怪しすぎる。無闇に近づけば取り返しの付かないことになりかねない」

「取り敢えず、帰還して協会に連絡か?」

「そうだな」


 まさか『機巧人形の採掘場』全域で安眠テロが発生しているとも思わず、熟練の探索者は異変が発生したダンジョンから帰還していくのであった。。

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