第94話 初めての睡眠

 まっくよにより引き起こされている安眠テロだが、全ての『仕事中毒ワーカーホリック』持ちを眠らすのは現実的に難しいと、ぬいは考えている。ダンジョン全てを回ることも、ダンジョン内の全てのモンスターに遭遇することも並大抵の難易度ではない。


ぬいぬいまだかな?」

まくまくなにが?」

ぬいぬいぬーいなんでもなーい



 結局、まっくよの目的を達成するためには、ダンジョンマスターに一撃喰らわすしかない。安眠テロはダンジョンマスターを目の前に引きずり出すための餌に過ぎない。これがぬいの考えであった。


ぬいきた!」

まくだれが~?」

ぬいぬいだんます

【クルサ、コンナジョウキョウデハナ】


 一方のまっくよは、純粋に『眠り』の真髄を『機巧人形の採掘場』全域に知らしめるためだけに動いていた。

 その純粋さは、『機巧人形の採掘場』のダンジョンマスターにダンジョン崩壊を予感させるには十分であった。そのためダンジョンマスターは安眠テロを阻止すべく出てきてしまう。そしてのこのこ出てきてしまったダンジョンマスターの末路はいつも通りである。


まくまくとりあえずまくねろ~」

【私ハ、普通ノ『機巧人形』トハ...チ、ガゥゥ....】

ぬぬっいおわった

まくまくまだだよ~、まくまくぜんいん!」

ぬいぬいほんとに!?」


 呆気なく眠りについたダンジョンマスターを『安寝茸』に寝かせ、まっくよは更なる安眠テロを続けるのであった。


―――――――――――――――


 『機巧人形の採掘場』ダンジョンマスターである『機械人』アンドロは、誕生して以来の目覚めを経験する。


【ワタシハ、眠ッテイタノカ?】

まくどうだ!」

【コレガ『眠り』カ、....最高ダ】

まくでしょ~」

【他ノ『機巧人形』タチノ性能モ軒並ミ上昇ヲ確認。『眠り』ガコレホドトハシラナカッタ】


 初めての睡眠を終えたアンドロは、目の前に安眠テロの主犯であるまっくよには驚かず、睡眠の恩恵にただただ感激していた。

 ダンジョンマスター権限で他の『機巧人形』たちの様子も確認するが、やはり自分と同じように恩恵を受けているようで、既に『仕事中毒』の効果もあり採掘を再開しているが、その効率は眠る前とは比較にならないほどある。


【ネムリダイジ、ネムリダイジ】

【スイミンヒツヨウ】

【ソウダナ、我々『機巧人形』ニトッテモ、睡眠ハ大切ナヨウダ】


 アンドロの近くで眠っていた『機巧人形』たちが、アンドロを見掛けると口を揃えて睡眠の重要性について説いてくる。もうダンジョン内部の『機巧人形』たちは立派な睡眠信者である。

 もちろん、睡眠の有用性はアンドロも自覚した。そのためモンスターたちに休息を与え睡眠を取らせることに異論は無い。


 しかし問題がある。『機巧人形』は身体の構造上そして『仕事中毒』のスキルの効果により眠れないと言うことであった。それを無視して眠らせられる存在は今のところ一匹しかいない。


【勝手ナ提案デ申シ訳無イガ、定期的ニ我々ニ睡眠ヲ届ケテハクレナイダロウカ】

まくいいよ...まくまくおかし!」

【オ菓子トハ、食ベ物ダロウカ? コノダンジョンニ食べ物ハナイノダガ】

まくまくあるはず

【イヤ、本当ニナイノダガ】


 お菓子=『幻想金属オリハルコン』という式は『眠り』の恩恵で上昇した処理能力でも導き出せず、この押し問答は、『安寝茸』の回収に行っていたぬいが戻ってくるまで続くのだった。



 

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