第89話 幻想金属

 蒼唯にしてはかなり活動的であった京都旅行が終わり、いつもの日常に戻った彼女に1つのメッセージが届く。


「じゃじゃーんです。これが地獄の番犬『ぬいベロス』です」

「ぬいぬいぬい!」

「まく~」

【おお、凛々しいお姿です】

「このコスプレ装備はぬいの意志によって色々と――あれ柊さんからです」


 柊から届いたメッセージは、いつものアイテム製造の依頼とは異なり、素材の加工の依頼であった。


柊:「それ、『幻想金属オリハルコン』って素材で最近出現した『機巧人形オートマタの採掘場』ってダンジョンのボスドロップ品なんだが、ウチのギルドの生産職の奴らは誰も加工できなかった代物なんだぜ」


蒼唯:「こんな金属がですか? 前に貰った『魔法銀ミスリル』とかは柊さんとこの人たちで加工方法を確立してたですよね? それよりも難しいってことです?」


柊:「難しいかどうかも判断がつかないんだぜ。『機巧人形の採掘場』はそれこそ『魔法銀』とかも採れるから探索者に人気で、これから『幻想金属』も沢山入ってきそうだからな、有用かどうか判断したいんだぜ」


蒼唯:「分かったです」


 そうして送られてきた『幻想金属』に対してまずは『分析』を試みる蒼唯。難しいかどうかの判断が付かないと言うことは、『鑑定』などもしにくいのだろう。そのため蒼唯は『着せ替え部屋』で作業を行う。


「通常時の硬度は凄まじいですね。魔力伝導率は『魔法銀』より圧倒的に高いはずなのに、これ加工するの凄く疲れるです?」

【疲れるだけで加工が可能なのがおかしいくらいの代物ですからね。『魔界』でも『幻想金属』について研究は進められてますが、『鍛冶師』はその硬さに、『錬金術師』はその外部からの魔力抵抗の高さにより1人での加工は困難を極めますからね】

「何人かで協力するですか。それは面倒そうで嫌ですね」


 複数人での合作など到底考えられない蒼唯は、自分1人で加工出来て良かったと思う。


【伝説の『幻想金属』を水飴の如く扱っている蒼唯様には関係の無い話ですが、その『幻想金属』に付与された『変幻自在』は魔力を込めることで金属の性質を如何様にも変化できますので、複数人で魔力を込め加工しやすくし、その間に『鍛冶師』が鍛錬するのが一般的です。本来なら蒼唯様と言えど賄いきれない量の魔力が必要な筈ですが...】

「そうなんです? 多分込め方にコツがあるんだと思うですね。分からんですけど」

【流石です。『魔界』の歴史をこうもあっさり上回ってしまうとは】


 そんな事を話していると『着せ替え部屋』に『ぬいベロス』ごっこに飽きたぬいとまっくよがやってくる。 

 蒼唯が水飴のように扱っている『幻想金属』を見たまっくよは、本物の水飴でも欲しがるように食べたいと主張してくる。


「まく~」

「これ今は柔らかくなってるですけど、私が手を離すと固くなっちゃうですよ。ちょっとまっくよだと噛みきれないんじゃ....そうですリリス」

【はい、どうされましたか?】

「この前『迷いの館』でまっくよが幻? を食べ過ぎた結果『夢喰いドリームイーター』が『夢幻喰いファンタジーイーター』に進化したですけど、『変幻自在』ってその適用内だと思うです?」

【あー...『夢幻喰い』ですか...『幻想金属』ですからね。恐らく適応内ではないかと】


 本来なら夢特効であり、幻も適応内とは言え効果は夢に比べて薄かった筈の『夢喰い』は、まっくよが『迷いの館』で幻で構成されたミッション空間を食い続けた結果、『食トレ』により『夢幻喰い』へと変貌を遂げた。

 進化したばかりでその性能の真価を図りかねている蒼唯たちだが、まっくよの食欲が刺激されたと言うことは食べられるのだろう。


「まあ取り敢えずリリスのお陰で加工方法も判明したですし、私も弄くれるですし...食べていいですよ」

「まく~!」


 まっくよは、硬度が元に戻った『幻想金属』をバリバリと平らげてしまうのだった。

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