幻想金属編

第88話 食育

 『錬金工房』の見学を終えてはじめの作業部屋に戻ってきた蒼唯たち。ちょうどその頃には優梨花へのはじめの用事も終了していたようであった。


「お疲れさま。見学は楽しかったかい?」

「そうですね。学ぶことは多かったです」

「なら良かった。麗花もお疲れさま。色々と」

「っ! 出来れば所属を見越した見学でないことくらいは教えておいて欲しかったですけど」

「それはごめんね。ややこしかったから」


 麗花には先入観を持たず、まずは蒼唯の素を見て欲しいという思惑があったため、普通の見学者として紹介した。その目論見は一応成功しており、自身のモチベーションが過去最高になっている自覚のあるため麗花も少し嫌味を言うくらいに留まった。


「師匠への用事は何だったですか?」

「まあ色々だけど、一番は『料理人』として料理会を開いてくれないかって催促が来てるからその相談。私は秀樹さんがレイドに参加しなくなって以降、そういうのは公にはしてないのにね」

「師匠の『食育』ですか! 久しぶりに師匠の本気料理が見れるです?」

「まだ決まってないわ。もしやるとしたら現役の『料理人』の子たちに対しての料理教室みたくなる予定」

「そうなんですか」


 『料理人』はダンジョン素材の中でも食材のみを扱う生産ジョブであり、普通の『料理人』は一時的なバフ料理等を造る。しかし優梨花が作る『食育』料理は、永久的に能力が上昇したり食材に応じたスキルを手に入れられる、超弩級の代物である。

 一応食べる探索者のレベルに応じたレアリティの料理でしか能力が上がらなかったり、一品作るのに労力が掛かるため量産できなかったりするなどの制限はあるが、それでもである。

 ただ優梨花が現役を退いてる以降、『食育』スキルを習得できた『料理人』は未だに現れていないため頻繁に料理会の要請が来たりする。


 因みに優梨花の『食育』を参考にした蒼唯がぬいたちに『食トレ』を付与することを思い付いたという経緯がある。


「それか師匠の家のキッチンにスキル補助系の機能を付与して『食育』しやすくするです?」

「昔なら兎も角、今は『食育』料理を3分で作れるとも思えないから大丈夫よ」

「そうですか...何か手伝えることがあれば言ってくださいです」

「ありがとう」


 そんな心暖まる師弟の会話は、蒼唯のスマホから鳴り響くメッセージの通知に遮られる。

 確認をすると『迷いの館』を秀樹やぬいたちと攻略中の輝夜からであった。


輝夜:「まっくよがちょっと本気出しすぎちゃって、ちょっと騒ぎになってるから戻るの遅れそう」


蒼唯:「あんなに渋々行ったまっくよがですか? 珍しいですね。食欲に負けたりしたですか?」


輝夜:「何か『迷いの館』に展開された幻系統の魔法とかを食べてる感じだったけどね。まっくよに謎解きを任せてたらミッション空間ごと食べちゃって、ダンジョンの終盤近くまでミッション無しで進めるようになっちゃってるのに今気が付いたんよ」


蒼唯:「説明されてもよく分からんですけど、迷惑かけたみたいですまんです」


 結局、このメッセージの後、輝夜たちは『迷いの館』が出現して以降最大の異常現象である『ミッション消失事件』の重要参考人として探索者協会に呼ばれ話を聞かれたため、結局この旅行で全員で観光することは無いまま帰路に着くことになるのであった。

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