第81話 別館のお茶会

 玉藻に勝利したまっくよたちは、『迷いの館』内部に建てられた別館に案内され接待を受けることとなった。

 とは言え接待のため忙しなく動いているのは、ぬいに茸まみれにされる寸前であった妖狐であり、この別館の主人である玉藻はゆったりと椅子に座り、3匹と談笑していた。

 

【やれやれ、この歳になってここまで驚かされるとは。あんたたちを造ったのがただの人間とは信じられないよまったく】

ぬいアオー」

まくまくつくられた~」

わんわんぼくもぼくも

【...え! こんな精巧な生き物も造れるヒト族がいるのですか!】


 ぬいとまっくよに続いてこはくが発した一言にお茶を準備中だった妖狐が驚く。しかしそれを玉藻が呆れ気味に訂正する。


【はぁー、こはくちゃんの身に付けてる装備を、ぬいちゃんとまっくよちゃんのご主人が造ったって意味さね。あんたもダンジョンマスターになるのならもっと眼力を磨きなね】

【は、はい。すみません先代様】

ぬいぬいきびしい

【ダンジョンマスターってのは厳しい役職ってことさね。今日みたいに、あんたたちみたいな化物を相手にしなきゃならん日もあるしね】

まっくそっか


 そう言われればぬいたちも納得せざるを得ない。基本的にダンジョンマスターの戦いは、負けたら終わりの一発勝負ではない。核さえ無事であるならば何度でも蘇れる彼らにとって勝敗は差程重要ではない。

 しかし中にはぬいたちのような例外が来訪する場合もある。それを見抜けなければダンジョンを崩壊され、良くても傀儡である。そう考えれば玉藻が次代の主に厳しいのも分かる。妖狐もその原因に納得されても複雑であろうが。


【それにしても...老婆心で言うが、ぬいちゃんは兎も角、まっくよちゃんは自分の能力にもう少し興味を持った方が良いと思うよ】

まくねる~?」

【眠らせ力については、この身で十分感じたよ。そうじゃなくてね、夢を喰う能力を持っているだろう?】

まくゆめ~? まくああ

【それぐらいの認識なんだね。幻術系統の術師にとって天敵みたいなスキルなんだけどね】

まくまくそうなの~」

「夢と幻は本質的には同じものだよ。寝ているときに見る幻を夢と呼んでいるだけさ。つまりそのスキルで幻も喰えるよ」


 まっくよは、睡眠の邪魔をする夢を取り除くためだけに『夢喰い』を使うが、玉藻は幻等も本質的には夢と同等のためスキルの有効範囲内だと言う。

 それならば、『迷いの館』の幻影等を使った謎解きミッションも簡単にクリアできてしまうことになる重要な情報である。しかしまっくよは興味無さそうである。まっくよの本質は眠らせることであり、それ以外に出来ることが増えたとしてもどうでも良い。この自身の興味を最優先する部分は、蒼唯の『ぬいぐるみ』らしいと言える。


まくへぇ~」

【興味無さそうだね。これはご主人似かね?】

ぬいぬいそうだよ

【それは大物だね。才能が無い者が真似したらいけないタイプさね。分かっているかい妖狐?】

【は、はい! 分かっています】


 まっくよの姿勢に感銘を受けていそうな妖狐に忠告する玉藻。

 ある分野で壁にぶつかった時、それを乗り越えるのは別の分野の経験であると玉藻は考えている。自身は凡才であったが故に様々な事を学び、どうにか今の実力までこれたが、天才はぶつかった壁にすら気が付かず、没頭している内にその壁を乗り越えてしまえるのだ。残念ながら妖狐はその類いでは無いだろう。


【それかぬいちゃんたちのご主人に頼んで後付けの才でも取り付けて貰うかい?】

【か、改造ってことですか?】

【さてね? それはご主人しだいさね。頼んでみるかい?】

【い、いえ、結構です! ...お茶をご用意いたしましたのでごゆっくりおくつろぎ下さい】


 玉藻の脅しが利いたのか、お茶の用意を終えた妖狐は奥に引っ込んでしまった。

 

まくまくかいぞう?」

ぬいたのむ?」

わんわんかっこいい!」

【冗談だからね。流石に。ご主人にも頼まなくていいからね】

 

 今度は3匹を宥めるのに時間を取られる玉藻であった。


 



 

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