第82話 ダンジョン核
まっくよの定期連絡で安全が確保できたとの連絡が入った。少ししたら秀樹たちの元に戻るとの事であった。その一報が入っても心配でそわそわしている優梨花を『迷いの館』へ向かわせる蒼唯。
「師匠はこはくの所に行って下さいです。私は取り敢えず今日泊まる旅館に行っておくです」
「ごめんね蒼唯。そうさせてもらうわ」
優梨花と分かれチェックインを済ませた蒼唯は、部屋の中でリリスを召喚する。リリスに聞きたいことがあったためだ。
先ほどのまっくよの定期連絡の中で優梨花には伝えていなかったが、現在3匹は『迷いの館』のダンジョンマスターに類する存在とお茶会中らしい。それを伝えれば優梨花が余計に心配がるので伝えなかったのだが、それに加え、向こうの意向的にも蒼唯以外には自身の存在がバレたく無いらしかったのだ。
「リリスもバレたく無い派ですよね?」
【現在、私たちと人間の関係は共生ですが、私たちダンジョンマスターの存在がバレたら寄生の関係にしようと人間たちは躍起になるでしょう。ボスモンスターとしての『夢魔姫』リリスとして公表されるのは良いですが、ダンジョンマスターとして『悪夢の国』、いえ今は『吉夢の国』を支配している事がバレるのは避けたいのです】
分からなくもない話である。ダンジョンマスターがその気になれば、ダンジョンを人間にとって有益な採掘場のような存在に作り替えることも可能である。
リリスが『悪夢の国』から『吉夢の国』へ作り替えたように。
「そうすると今の状況は不満です?」
【いえ、『吉夢の国』にしてから探索者を養分とする魔力の回収効率は上がりましたし、悪夢であろうと吉夢であろうと夢であることに変わりはないので特に気にはなりません】
「そうなんですか。リリスが良いなら良いです」
【蒼唯様やまっくよ様という上位存在に従うのは、私たちの元の世界である『魔界』ではよくあったことです。何より蒼唯様方は私の自由意思を尊重してくださいますし】
「つまり『エデンの園』の蛇みたいなのは嫌ってことですね」
【概ねその通りです】
おおよそダンジョンマスターの考えを理解できた蒼唯。まあ誰でも茸に寄生され思考を歪められるのは嫌であろうが。
「魔力でアイテムとか創り出すって考えがよく分からんですよね。その仕組みとか分かればダンジョン核を弄ってリリスをダンジョンマスターから解放とかも出来そうなんですけど」
【ダンジョンマスターという地位は窮屈ですし、自分の命がダンジョン核に宿っている感覚は気持ちが悪いですが、今のところは問題無いので大丈夫ですよ】
「やっぱり理解不足なんてすかね? しっかり『錬金術』とか学んだ方が良いです?」
【本当に心配していただかなくて大丈夫ですので、蒼唯様はこれ以上――、いえこれまで通り趣味を謳歌なさって下さい。ほら京都で購入なさった工芸品とやらは蒼唯様好みの可愛さではありませんか?】
「...やっぱりそう思うです? 師匠のセンスも相まって良い買い物をしたです」
前にぽろっとリリスがダンジョンマスターになる前の過去や現在の不満を発してしまったところ、ダンジョン核について学ぶ意欲を見せてくる。
リリスは気が付いていないが、蒼唯は相当リリスの事が気に入っている。蒼唯の性格的に気に入った相手には色々としたくなってしまう性格なのだ。ブレーキ役を担うリリスすらも無自覚に蒼唯がアクセルを踏むように誘導しているのだ。
【古来より神の歩みを遮ることは難しいとされていますが、俗物的な神で助かりました】
「何か言ったです?」
【いえ何も。それより商品をもっとよく見せてください】
「そうです? 分かったです!」
ただ今のところはブレーキの効きの方が強めなのであった。
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