第80話 玉藻
眠りこける妖狐をまっくよが持ってきたお菓子を食べ終えた3匹が囲む。何か突然現れた妖狐だが、この狐からはかなりの力を感じる。間違いなく先ほど相対した中ボスである『人狐』よりは強力なモンスターだろう。
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ボスモンスターであるならば使えると判断したまっくよとぬい。秀樹たちの元に戻るためにも茸を生やすのが手っ取り早いだろうと即座に行動しようとする。
しかしそれに待ったを掛ける声がダンジョン内に響き渡る。その声は若々しいような、それでいて歳を重ねた者にしか出せない落ち着きを感じさせるような不思議な声色をしていた。
【その子は次の館の跡継ぎなんだよ。無体な仕打ちはやめておくれ】
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【私かい? 私は『迷いの館』の先代主、『天狐』の玉藻と申します。やれやれ、当代に言われて一応こっちにも入れる道を用意しといたけど、こんな可愛い子達を招き入れちまうなら少し考えないとね】
声は聞こえるが姿は見えない。当たれば必眠のまっくよの『小常闇』がある以上、簡単に姿は見せないだろう。となれば『エデンの園』でダンジョンマスターを誘きだした方法をぬいは選択しようとする。
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【『狐焔』ダンジョンとはいえ、私たちの今の巣穴だからね。珍妙なモノを生やされたら敵わんよ】
ぬいが生やそうとばら蒔いた胞子はよく分からない焔により消えてしまう。胞子という『菌ノ庫』が一番脆い状況で対処されればどうしようもない。
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【私の巣穴で良かったよ。対等な条件なら相手にならなかったよ】
これまで予想外の行動で敵を翻弄してきたぬいたちだか、目の前に相手がいない状況ではどうしようもない。
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せめてもの抵抗でまっくよ眠ってる妖狐の上に乗る。玉藻は妖狐を取り返そうとするだろう。その時だけは隙が生まれるだろうと考えての事であった。
そんなぬいたちの考えを分かった上で玉藻は妖狐を取り返すため行動に移る。
【乗っただけで阻んだつもりかい? 『狐摘まみ』】
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これまで様々な幻影を看破してきたこはくや、五感の鋭いぬいたちを持ってしても3匹の前から妖狐の姿を消してしまう玉藻。
【さてと...じゃああんたたちは、そろそろ帰ってもらっ!】
人質を回収した玉藻にとってぬいたちは、ただの危険な侵入者である。一刻も早くダンジョンから放り出そうとする。
しかし掌の上で転がされて終わるぬいたちではない。
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【この子を回収させるのも罠かい――】
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【こりゃ一杯食わされた....ねぇ】
ぬいが妖狐の上に乗ったのは玉藻に妖狐を回収させまいとした訳ではない。『茸猫』による移動の条件である猫胞子を妖狐に付着させるための行動であった。
しかし完全に眠っている筈の玉藻だが、睡眠に関しては鋭すぎるまっくよは、玉藻を見て違和感を感じる
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【......やれやれこれでバレるのか。しっかり寝てるよ、身体はね。とっさに魂の一部を分離させてるからスキルで会話出来てるだけさね」
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【流石に降参だ。この状態で抵抗したら本当に消滅を覚悟でやらなきゃならない】
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【だから降参だって言ってるだろ。まったく、こういう化物を相手にしたくなくて隠居したってのにね】
あの一瞬で魂の一部を分離させた玉藻も大概であるが、この勝負は一応、勝利で幕を閉じるのであった。
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