第78話 隠しギミック

 『迷いの館』の中ボスである、館の管理人『人狐』。直接的な戦闘能力は乏しいが、幻影などを使った搦め手を得意とする相性の良い相手にはとことん強いタイプのモンスターである。しかし


「わんわん」

「...そこか!」

【く、そのイヌに私の『狐館』は通用せぬ、のか...】


 『財宝探索家セット』の影響で真贋を見極める能力も上昇しているこはくと『人狐』の相性は最悪である。『人狐』が幻影を展開し身を潜めても、尽く看破されこはくの指示を受けた坪さんが止めを刺す。結局『人狐』は何も出来ずに倒されるのであった。

 元々の予想で4人での攻略では中ボス討伐はそれほど難しく無いだろうと考えていた輝夜であったが、想像の数段、トレジャーハンターこはくの能力が高かったため、輝夜の出番が回ってくる前に討伐が完了してしまった。


「...私何もしてないな」

「ぬい」

「慰めてくれるの、ありがとうぬい。...それにしてもこはくの活躍が凄いよ。本当に熟練の斥候職かってくらいギミックを解いてくんだもん」

「わふぅ」

「はは、輝夜に誉められてこはくも喜んでるよ。...さて予定よりかなり早いけど中ボスも倒したし戻ろうか」

「そうですね先生。ちょっと不完全燃焼気味ですが、ここからは難易度も上がりますし仕方がありませんね」


 少し残念そうな輝夜だが、『迷いの館』の本番はここからであるため納得する。

 しかしここで予想外の事態が発生する。


 ボス部屋である以外、何の変哲も無いように見える『人狐の管理室』だが、トレジャーハンターとして眼力が上昇しているこはくにだけ感じる違和感があった。その違和感を確かめるため、秀樹と輝夜が『人狐』のドロップ品の確認をするため目を離した瞬間に、秀樹から離れ気になった場所をペタペタと弄るこはく。すると突然仕掛けが作動する。


「ぬい?」

「わんわ――」

「ぬい!」


 こはくの動向を見ていたぬいだけは、その仕掛けにこはくが呑み込まれそうになっていることに気が付く。しかし流石のぬいも突然の事態に動揺し、仕掛けを回避するには至らなかった。

 その結果、2匹は『人狐の管理室』から忽然と姿を消すのであった。


―――――――――――――――


 蒼唯たちが買い物を終えスイーツ巡りをしていた所、優梨花の元に秀樹から電話が掛かってくる。


「もう探索が終わったですかね?」

「まく~?」


 そんな呑気な事を考えていた蒼唯とまっくよだが、優梨花の表情が険しくなっていくに連れて事態の深刻さを察する。


「取り敢えず、こはくだけじゃなくてぬいもいないのよね? 分かったわ。聞いてみる。蒼唯?」

「どうしたです?」

「こはくとぬいが突然いなくなったみたいなの。恐らくダンジョンのギミックか何かで別の場所に行っちゃったんだと思うんだけど」

「え! ...こはくとぬいが一緒かどうかもわからんてす?」

「...そうみたい」

「まっくよ。取り敢えず確認してきてくれです。無事そうなら状況とかも聞いて欲しいです。もし、こはくが1匹でいるなら護衛役を頼むです」

「まく~」


 状況を理解した蒼唯は、まっくよに指示を出す。その指示に従いまっくよは、こはくに刷り込ませた猫胞子を利用した『茸猫』での瞬間移動を行った。


「取り敢えずまっくよ待ちですね。こはくには『不落要塞』もあるですし、ぬいも付いてる筈ですから心配しないで下さいです師匠」

「ありがとう蒼唯」


 まっくよを待つこと数分、蒼唯からにょきにょきっとまっくよが生えてくる。


「まく~」

「お、待ってたてす。状況はどんな感じです?」

「こはくとぬいは無事かしら?」

「まくまく、まく~」

「無事なのは良かったですけど、2匹が今何処にいるかは分からず、トレジャーハンターこはくの目を持ってしても帰り道は分からないですか」

「まく」

「状況は分かったです。取り敢えずまっくよもこはくたちに合流してくれです」

「よろしくね、まっくよ」

「まくまく~」


 メッセンジャー役を果たしたまっくよは、再度こはくたちの元に戻るのであった。

 

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