第77話 全てを捌く者

 京都にやってきた蒼唯たち一行。蒼唯はまずは観光をするものだと思っていたが、そのまま探索組はダンジョンに向かうつもりらしい。

 今回の目的のダンジョン、『迷いの館』は序盤は脱出ゲーム感覚で探索できるため、初心者にも人気の高いダンジョンである。

 しかし完全攻略をするとなると話は変わってくる。ダンジョンのボスモンスターは一般的に数十人単位のレイドで倒すのが基本なのだが、『迷いの館』は謎解きダンジョンという性質上、一度のミッションに参加できる人数が決まっている。そのため限られた人材で謎解きも戦闘もこなさなくてはならない。戦闘特化ではない1パーティーでボスモンスターも倒さなくてはならないのは、想像以上に厳しい。


「じゃあ取り敢えず今日は、中ボスまで倒すです?」

「そうなるかな。先生と一緒に探索するのも久しぶりだし、こはくの使う『財宝探索家セット』の性能も把握しておきたいから」

「トレジャーハンター装備で謎解きするですか? 言ってくれれば『探偵セット』でも用意したですよ」

「はは...まあ謎解きって言っても罠解除とか色々あるからトレジャーハンターの方が合ってると思うし」

「そうです? ...ならいいですけど」

「わん」


 やる気に満ちた返事をするこはくとは裏腹に蒼唯は少し考え込んでいた。輝夜も坪夫妻も蒼唯とは長い付き合いのため、このまま蒼唯を放置しておけば旅行中とか関係なく、『探偵セット』を造り始めてしまうだろうことは容易に想像できた。

 そうならないためにも優梨花はフォローを入れておく。


「探偵の格好も可愛らしいけど、ダンジョンには似合わないんじゃない?」

「確かにそれはそうかもです。流石です師匠」


 探偵衣装でダンジョンに乗り込むトイプードル。冷静に考えるとシュールな光景である。

 そうこうしていると、『迷いの館』付近までたどり着く。ここからは2組に別れて行動となる。


「じゃあそろそろ行こうか」

「はい先生!」

「ぬい!」

「わん!」


 秀樹とこはく、輝夜、ぬいは『迷いの館』へ、


「私たちも行きましょうか」

「わかったです師匠」

「まく~」


 優梨花と蒼唯、まっくよは京都観光に向かうのだった。


―――――――――――――――


 伝統工芸が盛んな京都では、ジョブが生産職である探索者のみで構成されたギルドが多く存在していた。有名どころで言えばポーション造りの最大手『錬金工房』や刀剣系の武器を卸している『刀匠の鉄床』などが挙げられる。

 そんな街において、『蒼の錬金術師』として名を馳せる蒼唯を知らない探索者はいない。素顔を公表されたのは記者会見の一度だけであるが、それでも誰しもが生産職の街を歩く蒼唯に注目していた。


 しかし誰も自分から声は掛けない。それは皆がマナーを守っているとかそういう話ではない。


「...おい、あれ『蒼の錬金術師』だろ? 声掛けてみないか?」

「ば、馬鹿! となりにいる方を良く見てみろ! 『全てを捌く者ジ・オールマイティー』だぞ。お前三枚に卸されたいのか!」

「あの方が? 商品の利益配分で話し合う際に、老獪な事で有名な『生産職協会』の長老たちを、まな板にのせられた魚のように何もさせなかったあの?」

「そうだよ! 強引に話し掛けたらお前も三枚に卸されるぞ!」

「あ、危ねー」


 今はそこまで積極的に活動していない優梨花だが、秀樹が『不落要塞』としてバリバリ活躍していた頃には彼女も数々の伝説を残してきたのだ。その威光はこの生産者の街において未だに大きな影響力があった。


「あ、この布は良いものです!」

「本当ね。色合もいい感じね」

「まく~」


 しかし蒼唯は遠巻きに見られていることなど気が付かず観光を楽しんでいるのであった。


 

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