第69話 狡猾

 『流星』が『エデンの園』の攻略に成功したと言う知らせが蒼唯のもとに届けられたのは、蒼唯が『着せ替え部屋』の『箱庭』により部屋の模様替えに熱中している時であった。

 しかし今回『流星』が『エデンの園』に向かった理由を考えれば、攻略に成功したと素直に喜べない状況でもあった。


星蘭:「『エデンの園』は各エリアの報酬をその場で食べることを推奨してくるの。エリアを進めば進むほど報酬の果実の質も上がってくから、私が注意していても食べそうになるメンバーは居た」


蒼唯:「でも食べなかったですね」


星蘭:「そしたら本当に簡単にクリアできたの。ボスというボスも特に出てこなかったわ。それで最後、『禁断の果実』を報酬として受け取ったら、私含めて今回一緒に攻略したパーティーメンバー全員に『楽園追放』って状態が付与されてるの」


蒼唯:「『楽園追放』です? というともう入れないです?」


星蘭:「試してみたけど『エデンの園』には入場出来なかった」


 『能力上昇林檎』を食べれば、思考が歪められる。誘惑に負けず食べない者はダンジョンの害になるため追放する。無理に邪魔者と事を起こさない点も含めて理に適っている。

 しかもボスすら出現しないという徹底ぷり。


星蘭:「取り敢えず、採ってきた『能力上昇林檎』を何個か送るから解析お願いしても良い? 本当は『禁断の果実』も送りたいけど、今回の遠征の収益がヤバいから...」


蒼唯:「まあいいですよ」


 こうして蒼唯の手元に『能力上昇林檎』が届けられる。

 星蘭から聞いた情報はリリスとしてはあり得る話であった。現在、蒼唯の家にダンジョンマスターであるリリスが来ているように、ダンジョンのボスが出現しないという状況も許容されるのだ。


「確か蛇が『エデンの園』のボスだったですよね?」

【はい。ですがあの性悪な蛇の事です。各エリアの動向を確認して、戦うかどうかを決めていても可笑しくありませんね。ですが、それならその方が好都合ですよ。楽にダンジョンの中枢まで行くことが出来るということです】

「ぬい!」

「まく~」

「なるほどです?」


 いまいち理解していない蒼唯は置いておくとして、ダンジョン探索を常日頃から行っているぬいと、ダンジョンを崩壊させかけた実績のあるまっくよは、リリスの言っていることを理解した。

 

「...じゃあ今回はぬいとまっくよの2匹で行くです?」

「ぬい!」

「まく~」

「ぬいぬい」

「まあそこら辺は話し合って決めてくれです」


 そう言い残し蒼唯は星蘭から送られてきた『能力上昇林檎』の解析に移るのだった。


―――――――――――――――


 解析から戻ってきた蒼唯の表情は暗い。


「何かあんまり質の良い代物じゃ無かったですね。能力が上がるのと引き換えに『成長阻害』が付いてたです」

「まく~?」

「食べれば食べるほど、成長しずらくなる感じですね」

【つまり性悪林檎で能力を上げ続けた者は、林檎以外では能力が上がらなくなるってことですか。思考誘導を含めて二重で『エデンの園』に依存するように仕向けているってことですか】

「ですね。そういうのと引き換えに上がる能力値も大したこと無いですし、本当に質が悪い林檎です。『エデンの園』に行っても拾い食いしちゃ駄目ですよ」

「ぬい!」

「まく~」


 結局、話し合いの結果、2匹で一緒に行くことが決定したらしい。

 2匹で計画を立て合っている様子は微笑ましい。そ れが『エデンの園』を崩壊させるための計画とはまるで見えない。


「そういえばです」

【はい? どうしましたか?】

「『着せ替え部屋』で作業してて気がついたですけど、彼処だといつもより『錬金術』が使いやすかったですよね」

【ま、まあダンジョン内ならダンジョンマスターの能力は高まる傾向にありますから】

「あれが良く探索者の人が言ってるバフってやつですね。部屋の中ならいつもより細かく『錬金術』を掛けれる気がするです」

【あ、蒼唯様の御力が強化。それは怖いもの無しですね。この人を強化しちゃったらヤバいだろ

「ありがとうです。何か含みがありそうですけど」

【いえいえ滅相もない】

「これまで興味は無かったですけど、真剣に私専用の『生産職装備』を造ってみても良いかもです」


 その発言にリリスは絶句する。一般人が蒼唯のアイテムを装備してもトンでもないことになるのに、蒼唯が蒼唯のアイテムを使う。想像しただけでナニカが終わる予感がする。


【ま、まあそれはおいおい考えるとして、今は『エデンの園』について考えましょう。そうしましょう】

「まあそうですね」


 そのためリリスは必殺『保留』により問題を先送りにするのだった。

 

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