第68話 着せ替え部屋
輝夜からのメッセージで『流星』が『エデンの園』に向けて出発した事を知る蒼唯。ダンジョンに詳しいリリスも『エデンの園』の中身を全て把握している訳では無いので、攻略に対する助言は出来ない。
そもそもリリスを他の人に話すことを、彼女自身が嫌がっているため、それを説明せず蒼唯がダンジョンの攻略法を話すのは怪しすぎる。そのため蒼唯が造った汎用性アイテムを幾つか持った状態で出発したのだった。
「でもです。これまで私、ダンジョンに微塵も興味湧かなかったですけど、ダンジョンって面白そうですね」
「ぬい!」
「まく!」
伝説の『錬金術師』とさえ呼ばれているのに、ダンジョンに微塵も興味がない蒼唯も蒼唯だが、そんな彼女の衝撃発言に驚くぬいとまっくよ。
そんな事情を知らないリリスは素直な反応を見せる。
【まっくよ様のご主人様ですのに、ダンジョンにはあまりご興味無いのですね】
「そうですね。でもリリスの話を聞いて便利そうだと思ったです。やろうと思えば似た空間くらい造れそうです」
【そうですか。私の話が参考になったのなら――はい?】
予想外の発言に困惑するリリス。今度は逆にぬいとまっくよは納得顔である。リリスに共感してくれる者はここにはいない。
【えーと、造れるんですか? ダンジョンを?】
「まあミッション? とかモンスターとかそういうまどろっこしいモノは削除するですし、そんなに大き過ぎるのも不便ですから、造るとしたら全くの別物になりそうですね」
それは言外に造ろうと思えばダンジョンを造れると言っているようにリリスには聞こえた。リリスの常識的に不可能だと叫んでいる。
ダンジョンマスターであるリリスでさえ、ダンジョンのシステムは複雑であり、自分で再現できるとは思えないのに、蒼唯は出来なくないと言う。普通なら笑い飛ばす所だが、自分のダンジョンを消滅寸前まで追い込んだまっくよの主人である。その発言には謎の説得力があるようにリリスには思えてしまう。
「取り敢えず、今は急ぎの作業もないですし、部屋の模様替えついでにやってみるです。リリスもアドバイス頼むです」
【は、はい。お任せください】
その日、リリスは神を見た。ダンジョンマスターであるリリスにとってその光景は、衝撃的であり神秘的なモノであった。
別物とは理解していても、個人の手によってダンジョンの核に似たナニカが造り出されたのだ。それも模様替え感覚で。彼女自身、感情の整理がつかない。
その後、ぬいやまっくよが蒼唯の手によって創造された事実を知ったリリスは、納得すると同時に確信する。
【蒼唯様が一般的な探索者の思想をお持ちであったなら、今頃、私たちはこの世に居なかったかもしれませんね】
「ぬいー」
「まくまく~」
【そうですね。あの時、まっくよ様方が来られたのは運が良かったのかもしれません】
『悪夢の国』から『吉夢の国』に変貌を遂げたことにより、滅亡は免れれたのだから。
「『
「ぬい?」
「『空間拡張』、『空間自在』『箱庭』くらいですね。ちょっと欲張りすぎて私の部屋しか対象に出来ないのは残念ですけど」
【それでも十分なことですよ!】
「まく?」
「『空間拡張』は部屋じゃなくて収納スペースに施してるです。部屋大きすぎても不便ですし」
「まく~」
【納得してしまうのですか、それで?】
ダンジョンの機能の一部を簡単に切り取って部屋に実装してしまうような偉業を、何でもないことのように話す蒼唯たちに付いていけるようになるには、まだまだ時間が掛かりそうなリリスであった。
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