エデンの園編

第66話 エデンの園

 『従魔競技会』の準備で忙しくしている間に、学校は夏休みに突入してしまった。夏休みシーズンは高難易度のレイドや長時間掛けて行うダンジョン探索を実施するギルドが多い関係で、蒼唯もここ1ヶ月ほどは忙しかった。

 しかし大手ギルドは準備をしっかりやるため、夏休み本番はそこまで注文が来ないのが常である。蒼唯も夏休みはしっかりと趣味活の時間が確保できる筈であった。


星蘭:「ごめんアオ! 本来いく予定だったダンジョンとは別のダンジョンに行くことになった」


蒼唯:「そうですか。それで何か用事です?」


星蘭:「そのダンジョン用のアイテムを幾つか造ってくれないかな?」


 しかし何事にも例外は付きものである。

 特に探索者を相手にしていると例外にしか当たらないような錯覚すら覚える。


 話を聞けば新しいダンジョンが発生したらしい。蒼唯は詳しくないが、『悪夢の国』と同じくテーマダンジョンであるらしい。


蒼唯:「新しいダンジョンが発生してそっち行きたくなったのは理解したです。でも別の人たちに80層突破されたから85層は先に行くって意気込んでたですのにそれはいいです?」


星蘭:「よくは無いけど、あのダンジョンは見逃せないから」


蒼唯:「へーです。どんなダンジョン何です?」


星蘭:「ダンジョンの名前は『エデンの園』。攻略中の探索者たちの話だと、今のところミッションをクリアすると、そのエリアに生えている果実を食べられるらしい」


蒼唯:「果実です?」


星蘭:「食べるとステータスが上昇する果実何だって。しかもテーマダンジョンにしては難易度は低めらしい」


蒼唯:「胡散臭いダンジョンですね」


 難易度は低いのに報酬は稀少なモノ。ダンジョン素人の蒼唯でも胡散臭さを感じる。

 ギャルっぽい見た目に反して慎重な星蘭がこんなダンジョンに興味を示すということは、蒼唯の感覚は間違っていないのだろう。


星蘭:「そうなんだよ。しかも難易度は低いって話なのに第2、第3のエリアに進んだって人たちの話が出てこない辺り本当に胡散臭い。でも今のところ、良い噂しか聞かないの。実は日本にもその果物『能力上昇林檎ステータスアップル』が入って来てて、食べちゃってる人とかもいるらしいの」


蒼唯:「だから攻略に行って真相を探るです?」


星蘭:「ヤバい代物だと判明してからじゃ対処が遅れるでしょ?」


 探索者として立派な発言である。しかしダンジョンを攻略したとして真相が解明されるとは限らないし、食べたデメリットがダンジョン攻略によって解除されるとも限らない。


蒼唯:「それは頑張ってくれとしか言えないですけど...ダンジョンをクリアしたからって、その林檎が無害になるかわからんですよね? それにヤバい物だったとしてもです。それを承知で食べたい人とかもいるかもです」


 現状、問題はないが怪しいからという理由だけでは規制は難しい。そもそも本当に何らかのデメリットが発生したとして、ステータスアップという稀少性を考えれば、流通を止めることは難しい。


星蘭:「でも...放っておけないし」


蒼唯:「まあ私には詳しいことは分からんです。でも最悪『能力上昇林檎』が流通したら、私が『能力下落林檎』でも造ってあげるから安心しろです」


星蘭:「それは何の解決にもなってないけどね...でもありがとう」

 

 『エデンの園』の攻略情報は、第1エリアのみで終わっている。そのため『流星』のダンジョン攻略は厳しいものとなることが予想されるのだった。


―――――――――――――――


 星蘭から送られてきた分かってる限りの『エデンの園』情報を見る。


「やっぱり自然が生い茂るって感じのところですね。でもやっぱり難しそうですね。『能力上昇林檎』の成る樹をどうにかすれば良いです?」


 どうにか出来るタイプの樹なのかは分からないが。

 ダンジョン素人の蒼唯が考えても分かる筈の無いことに頭を悩ませていると、まっくよに引き摺られる形でぬいが蒼唯の前にやってくる。


「どうしたです?」

「まくまく!」

「ぬい~」

「...あ、またです? また庭の木に茸生やしたですか! 前にダメって言ったですよね?」

「ぬい...」

「はぁー、枯れちゃったら私が父さんに怒られるです。ちゃんと元通りにしとくです」

「ぬい」


 蒼唯は珍しくぬいを叱る。『茸師』を持つぬいなら、生やした茸を元に戻すのもお手のものであるため木を枯らすようなヘマはしないだろうが、前に調子に乗って庭木に大量の茸を生やして木をしなしなにさせた前科があるので、厳しめに叱る。

 

「全くです。茸を自由に生やしたいならダンジョンとかでやれば良いです。それこそ――」

「ぬい?」

「どうなんですかね? 林檎の樹って茸で枯れるんですかね?」

「ぬいぬいー?」


 叱ってる最中にとあることを想像してしまい思考がそっちに持ってかれたことにより、置いてきぼりを食らうぬいであった。


 

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