第56話 夢を見ない
まっくよは、ぬいをお供に連れて、夢遊病状態の『夢牢』患者がいる場所に転送されてきた。
『夢牢』患者は隔離された場所で放置されていた。下手に近づけば襲われる可能性や魔法、スキルが飛んでくる可能性があり、他の者たちと一緒に居させられることができないのだ。
そんな危険人物たちの巣窟に着いて早々、躊躇なく近付いていく『ぬいぐるみ』。その様子を端から見て不安になるのは、『ぬいぐるみ』たちが派遣される事を事前に聞いていた対策本部のスタッフであった。『崩壊都市』に成り掛けた『菌ノ庫』ダンジョンを解決した実績も聞いてはいるが、見た目とのギャップから半信半疑である。
[おいおい、話は聞いていたが、あれが本当に何とか出きるのか?]
[『常陽都市』を元に戻した功労者が直々に送ってきたモノだからな。デザインがこの場に似合わないのは認めるが性能は保証されてるだろ]
[だといいが]
そんな軽口が至るところから聞こえてくるが、特に気にする様子もないまっくよたち。賢い『ぬいぐるみ』も外国語は非対応なのだ。
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巣窟にたどり着いたまっくよたちは、早速『夢牢』により意識を失った状態で彷徨う探索者たちを見つける。
まっくよも、そこら辺の探索者たちより幾分強く造られているが、スキルの発動途中に突発的な攻撃があると怖いので、そこら辺はぬいに警戒してもらいつつ、まっくよは『小常闇』を展開する。
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ぬいすら気が付けば寝てしまう性能のスキルである。夢遊病状態の探索者たちに回避できる訳もなく、続々と眠りに落ちていく。
彷徨っている者たちを粗方眠らせることに成功したまっくよだが、今日、蒼唯にアピールしてまで来た目的は別にある。まっくよにとってはここからが本番である。
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蒼唯は睡眠に関係あるから、まっくよが『夢牢』に興味を持ったと考えていたようだがそれは違う。睡眠の結果として夢を見るのではなく、夢に囚われた結果として眠っているというのは、睡眠の権化たるまっくよにとって許せない事である。
『夢牢』は睡眠への冒涜であり、自身の敵だと直感で悟ったのだ。
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一度『小常闇』で眠らせたい者たちに改めて『小常闇』を掛けるまっくよ。
夢を見るのは眠りが浅いからだと良く言われる。実際には深い眠りでも夢は見るらしいが、それ以上に深い眠りに誘ったらどうだろうか。
夢など見る余地もないほど深く、『夢牢』を塗り潰すほど黒い眠りが探索者に降り注ぐ。
まっくよ渾身の『小常闇』を受けた探索者たちの寝顔は先程までとは比べ物にならない程、安らかなものであった。
―――――――――――――――
颯爽と現れた『ぬいぐるみ』たちは、夢遊病状態の『夢牢』患者をしっかりと眠らせることに成功した。ただ念のため完全に眠っていることを確認するため、時間を置いた後、他の『夢牢』患者の元に戻す予定であった。
しかしその予定は覆ることになる。良い方向で。
[おい! アイツらが起きたぞ! 起きたんだ!]
[何だって! 失敗だったのか?]
[え? あ、ああそうじゃないんだ。意識が、意識が戻ったんだ!]
[な、なに? 『夢牢』が解除されたのか?]
何をやっても解除できなかった『夢牢』が解除された。どうやったかはさっぱり分からないが、原因は『ぬいぐるみ』に間違いないだろう。もし本当に『夢牢』が解除されたのなら、他の者たちも助かる可能性が高い。対策本部が騒ぎ始め事実確認に奔走する。
「まく~」
「ぬいぬい!」
そんな中、まっくよたちは、のほほんと日向ぼっこに興じているのだった。
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