第54話 悪夢の国
『悪夢の国』と呼ばれるダンジョンが発生したらしい。そこに足を踏み入れた探索者は、一人残らず夢の中に囚われ意識を失った状態で放り出されるらしい。
今のところ無事『悪夢の国』を出てこれた者はいないのだ。
「何かの怪談話です?」
「違うよ。本当にあった話...何かこの言い方も怪談話っぽいな!」
「テンション高めですね」
「誰のせいだと...ってこんなことはどうでもいいの」
そんな話を友人の輝夜から聞かされた蒼唯。怪談話を話すようなテンションで語った輝夜も悪いと思うが、そんなテンションになる気持ちも分からなくない。無事な帰還者ゼロ。そのため『悪夢の国』の情報もないのだ。攻略の見通しは立っていない状態なのだ。
ただ蒼唯としては特に興味を引かれるような内容ではなかった。高難易度のダンジョンが出現したとして蒼唯には関係ない。
ただ輝夜としては、探索者界隈では現在最もホットな話題である『悪夢の国』の事を、柊などから聞いていなかったことが不思議であった。いつもなら真っ先に話が行く類いの案件てある。
「『悪夢の国』の話、誰からも聞いてないの?」
「無いですね」
「じゃあ柊さんとかも蒼唯の力がなくても大丈夫って思ってる? それとも流石に頼りすぎてるって思ったのかな?」
「そんなことも無いです。特に頼られてる自覚も無いですし」
「『錬金術』の才能は自覚したのに...蒼唯の無自覚症は治ってないね」
「そうです?」
「そうだよ」
自覚するためには他者と比較する必要があり、他者への関心が薄い蒼唯が無自覚症なのは当然と言えば当然なのだ。
輝夜は諦めの表情を浮かべつつ、『悪夢の国』で起きたことを説明する。
「『夢牢』ってパッシブスキルが悪さしてるんだって。何でも呪いに近い性質らしい」
「へーです。ということは『夢牢』さえどうにかすれば良いんです?」
「それはまだ分かってないよ。『夢牢』の解除も失敗したらしいし」
「そうなんですか。方法は幾らでもありそうですけどね」
「例えばどんなの?」
「例えばです? 一番簡単なのは毒をもって毒を制すやり方です。スキルを使えなくなる呪いを掛ければ『夢牢』も不活化出来ると思うです」
「それは...最後の手段だね」
それは意識を取り戻す代わりに、探索者としては死ぬことを意味する。最後の手段としては有りだが、今やることではない。
蒼唯が本気で『夢牢』を何とかする目的で、本腰を入れてじっくり『夢牢』について研究すれば、『夢牢』だけを不活化するアイテムの製造も可能かもしれない。しかし今のところ蒼唯の琴線に触れてこない。それを研究する理由が乏しい。
「『夢牢』を保有してるのがアイテムなら『錬金術』で幾らでも手を出せるですけどね。人体錬成は認められてねーですし」
「そうだね」
「なら関わることは無さそうです」
となれば『錬金術師』には専門外の案件である。蒼唯が『夢牢』に興味を持つ事がない限りこの案件に関わることは無いだろう。と蒼唯は軽く考えていた。
蒼唯の近くにいる、眠りに関して一家言もつ『ぬいぐるみ』の影響でこの『夢牢』に関わっていくことになることを彼女はまだ知らないのであった。
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