悪夢の国編

第53話 夢牢

 ぬいもまっくよも、『食トレ』を行う上で有用なモノを美味しそうに感じるよう、視覚や嗅覚が進化している。個人によって好みは当然あるが、有用なモノであればあるほど美味しそうに見え、匂うのだ。

 それを踏まえて2人が選ぶ一番好みのモノと言えば、当然と言えば当然だが、蒼唯の造り出したアイテムである。


ぬいぬいなあなあ

まく~なに~?」

ぬいぬいあそこいこ!」

まくまく~だめだよ~


 ぬいがアイテム収納部屋へ行くことを提案するが、まっくよがやんわり却下する。これがいたずらっ子ぬいとのんびり屋まっくよの日常である。

 2匹とも蒼唯のことが大好きなのは変わらないが、困らせて構って欲しいぬいと、良い子にしていて誉めて欲しいまっくよの性格が出ている。


ぬいぬいじゃあじゃあ

まく~なに~?」

ぬいぬい~たんけんいこ~

まくまくもうねなよ


 最終的には、まっくよの『小常闇』で眠らせて終了なのがいつものパターンなのだが、今日のぬいは一味違った。

 ぬいは今日のダンジョン探索で習得した新たなスキル『超抵抗レジスタント』が発動する。


まく~あれ~?」

ぬいぬいぬい...ぬいこれですやすやとは...ねないぞ!」

まくまく、まく~じゃあつよめに、ねろ~

ぬ、ぬい~あ、ぐぅ~


 『超抵抗』によりいつもの『小常闇』は耐えたぬいも、眠り成分高めの『小常闇』は耐えきれず眠ってしまう。

 眠らせるという一点では、本家の『常闇』以上の性能を誇る蒼唯特製の『小常闇』。これに抵抗するというのは、生半可なスキルでは難しいのであった。



 次の日、仲良く眠っているぬいたちを発見した蒼唯。蒼唯が眠った後の2匹の攻防を彼女自身は知るよしもないのだった。


「うーん、最近は私のベッドに来ることもなく変なところでばっか寝てるですね? マイブームか何かです?」


―――――――――――――――  


 世界のとある国に突如として現れたダンジョン。それは分類するとなると、フィールド型ダンジョンと言えるだろう。

 新ダンジョンということもあり、世界中から多くの探索者が攻略に向かった。日本のギルドも参加していた。しかし結果は無惨なモノであった。


 帰還した探索者自体は多かった。その内の多くは傷すら負っていない。しかし彼らの殆どは意識不明であった。

 辛うじて意識があった帰還者は意識を失う直前

皆口を揃えて「夢に囚われる」と語った。意識を失えばもう戻ってくることはない。

 帰還者の唯一の言葉を裏付けるように、高名な『鑑定師』に帰還者の状態を鑑定させたところ、皆同じ『夢牢ドリームプリズン』というモノが付与されていた。

 『鑑定師』が『夢牢』を解析した結果幾つかの事が判明した。これは性質的には呪いに近く、デメリット効果のあるスキルを強制的に習得させらたような状態である。そのスキルは常時発動型パッシブスキルであるため、スキルをオフにする事も出来ず、探索者たちは永遠に夢の牢獄に囚われ続けている状態であった。


[あのフィールド型ダンジョンは覚めない夢を見させられる『悪夢の国』なのかもしれない]

[身体を帰還させた理由も分からない。もしかしたら意識はまだダンジョンに囚われたままなのではないか]

 

 モンスターの能力によるモノなのか、ダンジョンのギミックによるモノなのか。前者ならモンスターを倒せば解除される可能性が高い。後者ならダンジョンを攻略しなくてはならない。

 しかし無事な帰還者がおらず、ダンジョンの情報も殆ど無い状態で挑むのは無謀すぎる。


[『夢牢』を解除できる者に心当たりは無いか? 一人でも解除されればダンジョンの情報が少なからず手に入るだろう]

[呪いに近いのであれば『神聖魔法』の使い手を呼びましょう]


 そのため『夢牢』の解除のため世界でも有名な『神聖魔法』使いが召集された。しかし結果は失敗に終わる。『神聖魔法』は、習得したスキルを失わせるような効果は持たない。

 そんな未知の現象に即座に対応できるような存在は殆どいないだろう。

 『夢牢』の解除に失敗した天使司の脳裏にも1人の少女の姿が思い浮かんだのみであった。

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