第52話 力業

 蒼唯という伝説が表舞台に出てきたことに対して、危機感を抱く者は多い。先の『魔法瓶』もそうだが、蒼唯がほんの気紛れに造り出したアイテムで、これまでのパワーバランスがひっくり返ってしまう。

 これを危惧するのは現在、力を持ってる側である。蒼唯の趣味により、自分たちの握っている利権ががらくた以下に成り下がる可能性に怯えないといけないのは苦痛以外の何ものでもない。


 そんな彼らが往々にして行う手段は、第3者を守るという建前を使うことである。今回で言えば、これまで『ポーション』と呼ばれていた回復水の需要が暴落した影響で、それを造る者がいなくなる。そんなことを危惧する文面が柊の元に送られてきた。

 送り主から思惑は透けて見える。しかし言っていることは真っ当である。それが厄介な所なのだが。

 

蒼唯:「これまでポーションを造ってた人が止めちゃって、ポーション不足になるかもしれないです?」


柊:「それを危惧する奴らが多いってことだぜ」


蒼唯:「『魔法瓶』で造れるくらいの性能のポーションなら、それ相応の魔力と保存する容器さえ大量に用意出来れば大量生産できるですよ?」


柊:「はい?」


 蒼唯がポーションを造る容器に『魔法瓶』を採用したのは、二層構造をしていたためである。一層目は、水を魔力に変えるスキルを、二層目にはポーションを保存するスキルがそれぞれ付与されている。そのため『魔法瓶』でポーションを持ち運ぶことが出来るのだ。

 そして水をポーションに変えるような能力を造り出し付与することは、一般の『錬金術師』には難しいが、『保存』くらいであれば製造は可能である。

 

蒼唯:「というか二層式の大きな貯水庫とかタンクとか造ってくれれば、それに付与することは可能です。運ぶのが大変ですから『保存』用の容器が欲しいですけど。それでポーション不足は大丈夫じゃないです?」


柊:「そうだな...」


 蒼唯に頼めばほぼ全ての案件が解決する。前に柊自身が冗談で考えていたことだが、本当にそうであるかもしれない。

 ただ、蒼唯に頼りすぎてはいけない。蒼唯は自身の才能を自覚した今でも趣味として『錬金術師』をやっている。彼女をいつ頼れなくなるか誰にも分からないのだ。


柊:「こっちで色々と話してみるよ。一番良いのはアオっちレベルの『錬金術師』が増えることなんだがな」


蒼唯:「私が教えるのが上手だったら役にも立つですけど。それこそ感覚を共有する何らかの...脳?」


 感覚派筆頭の蒼唯が『錬金術』を教えると、擬音のオンパレードとなる。今のところそれを理解できる人物は蒼唯の周りには存在しない。

 それをクリアする方法を考える蒼唯の思考はどんどん怖い方向に行ってしまう。


柊:「ま、まあ地道にレベルアップして貰うしかないと思うぜ」


 柊が出来ることは話を反らすことくらいであった。


―――――――――――――――


 名実ともに日本トップのギルドである『黄昏』が、突如表舞台に現れた蒼唯を勧誘をしようと試みるのは当然のことである。しかし勧誘活動を行おうとした矢先、勧誘のブラックリストに彼女の名前がある事が発覚した。しかもブラックリストに入れたのは、スカウトとしての信頼も実績がある者であった。

 幹部たち含め様々な者が彼を責めた。しかし唯一彼を擁護し蒼唯への勧誘を止めるように指示した者がいた。それこそが『黄昏』のギルドマスターである桜島英雄であった。


「蒼唯は、ギルドの勧誘を受けるような性格じゃない。無理に勧誘活動を行えば蒼唯の心証は悪くなる。それこそ『黄昏』の普段の勧誘をすればあっちから拒絶されていた可能性は高い。木嶋の判断は間違っていない」


 誰も蒼唯とコンタクトが取れず焦っていた『黄昏』であったが、蒼唯のことを知っているような言動を見せた英雄の姿に落ち着きを取り戻すのだった。




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