第51話 ポーション

 『魔法瓶』の詳細説明と実際に使用してみた動画が『ブルーアルケミスト』に掲載された。その反響はこれまでサイトで売られた商品の中で一番のモノであった。

 特に反応が大きかったのは、ポーションを主力商品とする生産系ギルドと素材採取を主の収入源とするギルドであった。彼らにとって『魔法瓶』は食い扶持を奪っていくかもしれない商品なのだ。


 『ポーション』というモノの価値を崩壊させる危険性がある。とニュースでコメンテーターが苦言を呈する様子も見られる。ただ蒼唯にしてみればそんなことは無いらしい。


蒼唯:「全てのアイテムに言えることですけど、薬草っていう素材を使う分、性能を高めるためのリソースが増えるです。逆に『魔法瓶』で造るポーションは、水にただ回復成分を希釈させてるだけです。それは薬草の成分を水に移してるだけのモノに等しいです」


 蒼唯の感覚では、薬草を使った『ポーション』はアイテムであるが、『魔法瓶』で造ったポーションは、ただの回復効果のある水であり、アイテムとは言い難い。


柊:「言わんとしてることは分かるぜ」


蒼唯:「他にも差異はあるですけど、まあそんなとこです」


柊:「分かったぜ」


 話を聞いた柊は、なるほどと納得する。確かに蒼唯の造る『ポーション』には、通常のポーションには無い気遣いが感じられる。回復効果以外にも様々な効果があるのだろう。


 ただ問題なのは蒼唯が言うところの、薬草の効能を水に移しただけのモノ、それしか造れない『錬金術師』が多いことだ。そもそも薬草の回復効果以外に注目するような者がいないだろう。『魔法瓶』のポーションは、一般に売られているポーションと同レベルなのだ。そこら辺は探索者事情に詳しくない蒼唯は知らない所でもある。

 

「これからは、『魔法瓶』で造れるポーションが最低基準になるってことか。これも必要な犠牲かもしれないぜ」


 『魔法瓶』で造るポーションと差別化できる『ポーション』を造れる者は生き残り、それ以外の者は廃業するか他の商品を造るしか無くなるだろう。

 『魔法瓶』の存在は『ポーション』の価値を高め、これまで造られてきたポーション紛いの回復水を淘汰することに成るのだろう。


「アオっち以外誰も差別化できなくて『ポーション』が造られなくなる危険はあるけどな」


 そんなことを考えつつ、蒼唯の説明をよりマイルドにした文章を、蒼唯の造った『ポーション』の効果と共に『ブルーアルケミスト』に掲載するのだった。


―――――――――――――――


 『ポーション』を主力商品としてきた『錬金工房』は絶望に打ちひしがれていた。『ブルーアルケミスト』に掲載された蒼唯が造った『ポーション』は想像を絶するモノであった。確かにあれと比べれば『魔法瓶』から造られるモノをただの回復水と評するのは納得できる。

 しかしそれは、これまで自分たちが自信を持って提供していた『ポーション』をもポーションの紛い物だと断じるのに等しい。


「これからどうするかだが...」

「何人かの職人がやって見ましたが、かなり難しそうです」

「別の効果を付けられたとして回復性能が落ちたら元も子もないからな。なぜ『蒼の錬金術師』は同じ素材を使ってあれだけの回復性能とその他の効果を両立できる?」

「それが伝説の『錬金術師』と言われる所以でしょうね」


 まだ、本格的に『魔法瓶』は売られていないが直ぐにこれまでのポーションの需要は無くなるだろう。であれば『錬金工房』として取れる選択肢は進むか下がるかの二択である。しかし


「『ポーション』からの撤退...はしない。やるしかない。我々こそが『ポーション』の専門家であるべきだ」

「はい!」


 職人魂に火が付いた者たちに撤退の2文字はないのだった。


 反対に利益目的で『ポーション』に手を出していたギルドの多くは撤退を選択するのだった。

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