第50話 魔法瓶
蒼唯は使い捨ての商品を造るのを嫌がる。『錬金術師』が造るモノの代名詞である『ポーション』すら嫌がるのだ。
ただ蒼唯に造って欲しいモノを聞かれれば、少なくない人数が回復アイテムと答えるだろう。それだけ探索者は危険と隣り合わせの職業なのだ。
しかも他のダンジョン探索用アイテムと異なりポーションは一般の人も使用する。そのため需要の多さは他のアイテムの追随を許さない。
そう言うこともあり、運営者の柊目線では『ブルーアルケミスト』で売って欲しい商品ではある。それを柊から蒼唯に伝えることはないが。
「うーんです」
「まく~」
蒼唯も悩んでいた。探索者事情に疎い蒼唯でもポーションの重要性は理解している。これでも『高位ポーション』をエナドリ代わりにしている女なのだ。
しかし蒼唯の趣味ではない。知り合いに頼まれて幾つか造るのは構わないが『ブルーアルケミスト』で売るとなれば定期的に造らなければならないだろう。それは面倒だ。
「前に造った『
「まく~?」
「あ、そうです。使い捨てじゃないポーションを造ればいいです! となると必要なモノは――」
突然、良いアイディアが思い付いた蒼唯。すぐに柊に連絡をして、必要な材料を取り寄せるのだった。
――――――――――――――――
柊の目の前には、魔法瓶が置かれてる。シンプルなモノではなく、動物等の姿を模した蒼唯の製作物らしいデザインの魔法瓶である。
その魔法瓶に水を入れた状態で魔力を注いでいく。柊も一応は探索者だが、ダンジョンにほとんど行っていないため、保有する魔力は微々たるモノであるが、それを注いでいく。
「アオっちの話だとこれで完成らしいが...」
一人言を言いつつ柊は机の上に置いてあったペーパーナイフで自身の指を切る。
「いっ! これに...お、治った。本当にただの水がポーションに変わったぜ」
魔法瓶に入っていた水を掛けると指の傷は見事に治った。痛みもすっかり消えてしまった。
もともと魔法瓶に入っていた水は、柊がコンビニで買ってきた水である。それを魔法瓶に入れ魔力を注ぐだけで『ポーション』へと変わったのだ。
使い捨ての『ポーション』を造りたくなくて、『ポーション』を造るアイテムを造ってしまった蒼唯。そんなアイテムを造ろうとする発想も凄いが、それを造れてしまう技術力も凄まじい。
「水の質と注いだ魔力の総量によって『ポーション』の質が変化するらしいからな。ポーションを主力商品にしてるギルドは阿鼻叫喚なアイテムだな。しかも素材は希少なモノ使ってないのがまた」
この魔法瓶一つあればそこそこ高価な『ポーション』の代わりに水を用意すれば事足りる。そんな恐ろしい状況にしてしまえる。しかも希少な素材を使っていない故に、量産をしようとすればできてしまうのだ。
このアイテムは、水魔法を使える探索者が実質ポーション何十本分の役割が可能となる。量産されれば間違いなく探索者の必需品と評されるアイテムだろう。
「これで、造った本人は『ポーション』造りたくないとしか思ってないのがなー」
才能とは残酷であると言わざるを得ないだろう。
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