第47話 クラスメイト

 伝説の『錬金術師』の正体が蒼唯であると公表された際、一番驚いたのは間違いなく同級生たちだろう。探索者への関心があることが普通である中で、一切の関心を示さない女の子。それくらいの印象であった。そんな女の子が実は世界的に見てもトップクラスの生産職としての実力を持っていたなど、到底信じられない。


 公表された次の登校日、蒼唯の元には人集りができた。皆が蒼唯の話を聞きたがった。『死毒都市』について、そして『菌ノ庫』ダンジョンについて。しかし『死毒都市』の時は『逆様の槌』を提供しただけであるし、『菌ノ庫』ダンジョンの時は、ぬいぐるみのぬいが勝手にやっただけである。話せる話題は特に無いため蒼唯は、心底面倒そうな表情を浮かべながら、


「知らないです」


 と回答した。

 蒼唯本人はボッチオーラと評しているが、彼女には孤高の存在特有のオーラがある。蒼唯のシンプルな回答に不満はあるが、それを口に出せる者はいなかった。


 その話が学校中で広まった結果、蒼唯本人に直接話を聞こうとする者はいなくなったが、遠巻きから見られる事が増えた。

 遠巻きから観察してみると蒼唯が意外に面白い存在である事が分かってくる。彼女が『視線誘導』アイテムを身に付け登校し、校内でそれを唐突に外したため、周りからは、突然蒼唯が出現するように見えた『蒼唯テレポート登校事件』

 話題のぬいぐるみが蒼唯を心配して勝手に付いてきてしまったため起こった『今日1日はただのぬいぐるみのふりするです事件』など日々、学校内に話題を提供し続ける存在となった。

 蒼唯が引き起こす事件はどれも生徒たちの想像を越えるモノであったため、蒼唯が伝説の『錬金術師』であるという事実も自然と浸透していくことになる。


―――――――――――――――


 今回の公表騒ぎで良かった点は、輝夜と周囲の目を気にせず話せるようになったことだと蒼唯は思っていた。

 輝夜は周りから注目されることを面倒がる蒼唯を気にして、これまで学校内では極力話し掛けては来なかった。しかし現在は、蒼唯と輝夜が話していても違和感を覚える者はいないだろう。


「それで、何でぬいは付いてきちゃったの?」

「昨日『視線誘導』アイテムを付けずに外をうろうろしてたらです、どこかの記者に囲まれちゃったです」

「大丈夫なの?」

「そのときまっくよが大活躍したから平気です。でも、まっくよがそれを夜ずっと自慢してたです」

「そういうことか...ぬいぐるみの物真似? 凄い上手いけど何か可哀想になるから止めさせてあげなよ。先生には私から事情を説明しとくよ」

「そうです? なら動いていいですよぬい」

「...ぬい~」


 突然動き出すぬい。『菌ノ庫』ダンジョンにより話題となった『ぬいぐるみ』である事が確定し、周囲がざわめき出す。


「でも勝手にうろつくなです」

「ぬいぬい!」

「皆がびっくりしちゃうしね」


 周囲をまったく気にする様子がない蒼唯と周りのクラスメイトの関係は、さりげなく間に入り調整役をする輝夜のお陰でトラブルは起きていない。

 実際のところ蒼唯の生活で、公表以後に一番変わったことは学校生活なのかもしれない。

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